空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
……それは、20歳の賢太郎さんが、14歳の私に向けて書いた〝Dear Nachi♡〞から始まるラブレター。
あはっ、♡マークまで書いてある。
意外だから余計に嬉しいな。
ボールペンで書かれた丁寧な字。
ふふ、少し縦長で右上がりのクセは昔からなんだね。
〝今も那知ちゃんが毎日隣にいてくれたらいいのにな、って思ってるよ〞
〝早く、毎日『ケンちゃん』て呼ばれたい〞
〝俺のお嫁さんになってくれる約束、覚えてる?〞
〝その日が来るのが待ち遠しいよ〞
なんて…
当時の私が読んだら嬉しすぎて卒倒しそうなくらい、まっすぐな賢太郎さんの気持ちがたくさん綴られていて…
涙が止まらない…
「…っ……」
「……那知?」
私の嗚咽に気付いた賢太郎さんが振り向いた。
「どうした?俺…何か嫌なこと書いたかな…」
「ううん…」
私は涙が溢れるのを気にせず首を横に振ると、不安げな賢太郎さんの手を握った。
「ごめんなさい……」
「…何で謝るの?」
「ケンちゃんのこと……ずっと…忘れちゃってて…ごめんなさい……」
「那知…」
「ケンちゃんは……こんなにも私を想ってくれてたのに……お手紙も書けなくて…ごめんなさい……待たせてしまって…ごめんなさい…」
「那知、いいんだ!そんなことはいいんだよ、那知」
謝っても謝り足りない私を、賢太郎さんは強く抱き締めてくれた。
「那知が謝ることなんかひとつもないよ。…今、こうして那知は俺の腕の中にいるんだからさ」
「ケンちゃん……私も…忘れたくなかった……いっぱいお手紙書いて……いっぱいやり取りして……ケンちゃんとずっとずっと繋がってたかった…」
「ん…そう思ってくれるだけで嬉しいよ」
「なのに……何年も…何年も忘れちゃってて……しかも私…他の人とも付き合ったりして……結婚まで考えてたなんて……本当にごめんなさい…」
本当に…私はなんてバカなんだろう…
ケンちゃんのお嫁さんになるって約束したのに…他の人と付き合うだなんて…
本当に大バカだ。
「那知、俺達は少し遠回りをしただけだよ。それに、那知も他の男と付き合うことで気付けたものもあっただろ?……嫌なことされて傷ついた事もあるだろうけど、何も損ばかりじゃないはずだよ。例えば……歴代ダメンズのお陰で俺の良さが引き立ってたり、とかさ?」
「ふふ……そんな事しなくてもケンちゃんはすごく素敵な人だよ」
「きっと、男だけじゃなくて仕事でもさ、俺とすぐに結婚してたら気付けなかった事とかたくさんあると思うよ。…俺も……失うものがない独り身だったからこそ、ここまでがむしゃらにやってこられて、その結果、今の俺があるんだ。…だから、この遠回りも俺達にとっては大事なことだったんだよ」
「ケンちゃん……ありがとう……ケンちゃんとまた出逢えてよかった……」
私もぎゅう、と賢太郎さんに抱きついた。
「結婚したら、今まで離れてた分を取り戻す勢いで愛するからな」
「うん……私も忘れてたのがなかったくらいにケンちゃんを愛したい…」
「ん…早く退院しような」
「うん…」
…抱き締められたままで顔は見えないけど、賢太郎さんの安心したような声に私も嬉しくなった。