空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

その男性が「えっ!」と驚いた顔で私を見る。


…そりゃそうだよね。
見ず知らずの女がおかしなことを言ってるってのは分かってる。

…けど、このトップシーズンに、離れのお部屋を1人で利用する事に気後れしていたのも事実で…


「あの、私、離れのお部屋に宿泊するのですが、1人での利用なので何だか申し訳なくて。…お部屋も襖で分けられますし、ベッドのお部屋は鍵がかけられるみたいですので。……あっ、いきなりすみません……お困りの様でしたので……本当に…あの、ご迷惑でなければ…の話ですけど」

言い訳がましいかもしれないけど、きちんと理由は言っておいた方がいいもんね。


すると、その男性が驚いたまま問う。

「いや、こっちこそ本当にいいんですか?」


…あぁ…ほんとに心地良い声…


「はい。私がいると落ち着かないとは思いますが、もうこの時間ですし…今日はどこのお宿もいっぱいだと思いますので…」

と言うと、いつの間にか女将が私のすぐ傍に来ていた。

「東雲さん、寛大なお心遣い、誠にありがとうございます。こちらの十和田さんの身元は私が保証いたしますわ。独身ですし、それなりの地位に就くお方で、決して怪しい方ではございません」

「そ、そうなんですね。わかりました。…あっ!でしたら逆に私の方が怪しい者ですよね。じゃあ、あの、貴重品とか大事なものはフロントで預かっててもらってください。何なら女将に私のボディチェックをしてもらって構いませんので」


「…クッ…怪しい者って……ククッ」

「十和田さん、東雲さんに失礼ですよ」
女将が男性をピシャリとたしなめた。

「……失礼」

「いっ、いえ…」

まだクククと笑う男性を見ると視線がぶつかり、またまたドクン!と胸が鳴った。


私には、この人がイケメン芸能人と言われる人達よりも魅力的に映っていた。

キリッとした眉と二重の切れ長な目、そして鼻筋が通っているからか、とてもクールな印象を受けるけど、どこか優しそうにも見えた。


…ほんとのイケメンさんてこんな人の事を言うんだろうな。
尚人も社内ではイケメンと言われているけど…レベルが全然違うもん…

…と、またもや目が離せないでいると、ふっ、と優しく微笑まれた。

あっ!
「すすすいません!」

「あらあら東雲さん、十和田さんに見惚れました?ふふ」

なんて女将のからかいにも、冗談やうまく返すなんて余裕もなく…

「はっはい、うちの会社にはいないくらいあまりにも素敵だったので、驚いて思わず見入ってしまいました!すみません!」

…正直に言っちゃった。


「ぶっ」
「ふふふ、東雲さんは本当にお可愛らしいわ」

「いっいえ、不躾な態度で大変失礼しました。…あ!見惚れてしまいましたが、夜這いをかけたりとかはしませんのでそこはご安心を!」


「ぶ……あっははは!」

「け…十和田さん!」
ビシ!と飛ぶ、女将の鋭く強い口調は、まるで母親が子供を叱る時の様だ。

「だってさぁ…クク…」

「だってじゃありません。十和田さんは東雲さんのお部屋に泊まらせて頂くのですよ?十和田さんこそ失礼の無いようになさって下さいませね」

…という女将のセリフは本当に子供をたしなめているみたいで、もしかしたらこの男性は本当に親戚とかお身内なのかしら?
まさか親子…?


なんて考えていると「それでは東雲さん、十和田さん、お部屋へご案内いたします」と女将が直々に案内してくれた。
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