空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
「ふー……お腹いっぱーい……」

仲居さんが食事の片付けを終わらせると、別の仲居さんが来られてお布団を一組敷いてくれた。

「十和田様はベッドのご利用と聞いておりますが、よろしいですか?」

「あぁ、俺はそうするからいいよ」

「かしこまりました。それではごゆっくりお寛ぎ下さいませ」

と仲居さんがお部屋を出られると、十和田さんが頼んだ地酒とおちょこがテーブルに残されていた。


「那知、日本酒飲むか?」

「あ……(うーん…どうしよ……ま、たまにはいーよね!)はい、飲みます!」

「……今の間は何だ」

「あの、私、お酒はそれなりに好きなんですけど、あまり飲み過ぎるなと友達に言われてて」

ドクターストップならぬ、霧ちゃんストップを頂いているのだ。


「弱いのか?悪酔いする?」

「あまり強くないですが、それよりも酔うと絡むらしくて。…なので頂けるなら少しだけにしようかな」

「ははは、じゃあ今なら俺に絡むのか?」

「たぶんそうなるかと…」

「いいよ、俺なら気にするな」

「はい…ありがとうございます」

そう答えると、十和田さんはお酒をおちょこに入れて渡してくれた。

「じゃあ本日二度目の乾杯な」
「か、かんぱーい」

んー、フルーティで美味しい!
これは飲み過ぎないようにしないとね。

おちょこ一杯のお酒をちびりちびり飲みながら、十和田さんに声をかけた。


「あの、十和田さんのお名前と年齢をお聞きしてもいいですか?」

確かフロントの黒田さんはケンタロウさんと言ってたけど…


「やっと聞いてくれたか。食ってばっかで全然俺に質問してこないから興味持たれてないのかと思ったよ、ははっ。……俺は十和田 賢太郎(とわだ けんたろう)。字は十和田湖のトワダに、賢い太郎な。歳は34。女将も言ってたけど、いい歳して本当にまだ独身だ。しかも彼女もいない寂しい男だよ。あぁ、俺の事は名前で呼んでくれ」

「あっ、はい。ありがとうございます。…賢太郎さんはそんなに年上だったんですね。…あの…すみません、興味がなかったんじゃなくてですね、私、この旅行でこちらのお食事をすごく楽しみにしてたのと…あと、賢太郎さんはそれなりの地位がおありの方だと先程お聞きしたので、あまり詮索するのはよろしくないのかと思いまして…遠慮してたといいますか」


「ふ、そっか。那知はほんと謙虚で可愛いな」

そんな言葉と共に、前髪を片手でかきあげて優しい笑みを向けるとか…

ひゃー!
大人極上イケメンはイケ仕草が似合いすぎ!
心臓がドキドキしすぎて今にも倒れちゃいそう!


でも…

可愛いだなんて…

嬉しいけど…


「そんなことないです……可愛くないんです、私なんて」

2年近く付き合った婚約直前の彼氏を若い子に簡単に略奪されるアラサーだもん…

可愛いわけがない…


はぁ…

ため息気分を掻き消す様に、おちょこの残りの日本酒をグイと飲んだ。

…おいし。もっと飲みたいな…



「…那知、何で1人で泊まってるのか…聞いてもいいか?」

賢太郎さんが笑みを消した顔で聞いてきた。
…このタイミングでそれを聞くってことは、何となく察したんだろうな。


「いいですよ。…じゃあ」

おちょこをテーブルの向かいの賢太郎さんにズイと差し出した。

「ん?」

「その件につきましては飲まないとやってられないといいますか」

「ふっ…あっははは!いーよ、好きなだけ飲んで全部俺にぶちまけろ。絡んでも俺は受け止めるし放っておかないから」

「ありがとうございます!先に謝っときます!ウザ絡みしたらすみません!」

テーブルに頭をゴリゴリつけてそう言うと、クククと笑いながら「那知、こっち来い、隣」と呼ばれた。


「ハイッ!賢太郎さん!」

と挙手して言う辺り、たぶんもう酔い始めてるんだと思う。
だって何だか楽しい気分だし。


おちょこと座布団持参で賢太郎さんの隣に座ると、ククク…と笑いを堪えながら地酒をついでくれた。

それをグビ、グビ、グビビ!とおいしく三口で飲み干すと、私は尚人との付き合い、そしておとといと昨日の出来事を…つらつらと話し始めた。


それからもう一杯、二杯と飲み……聞き上手な賢太郎さんからの質問にも、聞かれるままどんどん答えていた。
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