空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
〝お前は『男』ではないのだ〞と突き付けられた事に項垂れていると、…キュキュッ……シャー…と、シャワーを流す音が聞こえてきた。


だからちょっと待てって……


那知を直視できなくなった俺は、もう一つのデッキチェアに腰掛け、そこから見える夜空を見ながら会話をすることにした。

一人にさせたらマジで危ないからな。



ちゃぷ……ちゃぽん……
「はー……気持ちいー……」

「那知、湯加減はどうだ?」

「ちょうどいいよー……はー…月と星がすごくきれーい……賢太郎さんも一緒に入ればいいのにー、ふふっ」


「…あのなぁ…」

本気か?
本気でいいのならマジで入るぞ?


「あはは、じょうだーん」


冗談か………ガックリ。

「…じゃあ後で入るよ」


「うん、それがいーよー、気持ちいいからー」


ちゃぷ…ちゃぷ……

「はー…癒されるー…」


ちゃぷ……




…あれ、おとなしくなったな…

「……那知?」


ざぱ……ちゃぷ……


お湯の動く音はするが、那知からの返事はない。


「那知?……どうした?」


「………」


応えがない…って…

「那知 !?」

返事のない事に焦り、露天風呂に目を向けると、こちらを背にして湯船の縁の岩に腰掛ける那知の姿があった。

万が一の事でなくてホッとしたが、少し俯いてるのが気になった。


「那知…」

後ろ姿とはいえ裸だし、安易に近付けない、よな…

しかも、艶かしいほど綺麗な括れをみせるウエストに女を感じてしまい、これ以上の刺激は俺的にヤバくて。



「那知、のぼせたか?風呂から上がるなら今バスローブ持ってくるから、そのままで少し待ってろよ」


すると、何も言わず背を向けたまま頭を何度か横に振り、ちゃぷん…と肩まで湯に浸かると、少し俯いた。


「…那知?どうした?」

悪いとは思いつつ後ろから近付くと、小さく嗚咽が聞こえた。


「…ふっ……うっ……」



「那知……」

両手で顔を覆う那知の頭にそっと手を置いた。


女性相手にこんなことをしたのも、こんな気持ちになったのも初めてで、こんな時にどうするのが正解なのかもわからないとか…

本当に大事な時に役立たずだな、俺…



「…ごめんね……ちょっと思い出しただけだから……大丈夫……」


そう言う姿に…さっきまでは見られなかった、辛さや悲しさ、悔しさが、今になって滲み出てきた様に見えた。

平気な素振りを見せてたけど…
きっと、これが今の本当の那知なんだ。

…そう思ったら、もう自分を抑えたくなかった。


いや、抑えられなかった。


こんな衝動ももちろん初めてのことだ。


…自分の社会的地位を今ほど煩わしいと思ったことはねぇな。
そんなものをなげうってでも、今、目の前にいる那知を助けたい。

那知の心の中の辛いものを全て取り除いてやりたい。


ただの一人の男として、那知を愛したい。

< 26 / 189 >

この作品をシェア

pagetop