空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
朝礼は私達デザイン課が入る、一番広いオフィスで行われる。

他のフロアの人達は前方のスペースに集まるので、このオフィスの奥の部屋にいる私達はいつも後方に留まる。


でも…先週金曜日の朝礼の時は、この位置で助かった。
誰にも私の涙が滲む目を見られなかったから。



朝礼の時間が近付くと、社員の殆どが集まった。

…すると、わざわざ後方にいる私の元へ、リナさんがやってきた。

「東雲さぁん、おはよぉございまぁす」
「おはようございます」

そう笑顔で挨拶を交わす2人は、端から見れば何の変哲もない普通の光景なのだが、実は見えない不協和音が鳴り響いている。


「あれ、リナちゃんてシノと仲よかったっけ?」

「あっ、岸さん。おはよぉございまぁす。リナね、この週末に旅行に行ってきたんですよぉ、尚人さんとぉ。なんか東雲さんも週末に旅行行ったみたいだからぁ、どんなだったのかなぁってぇ。リナ達はぁ、もぉ尚人さんが何でもすっごいスマートでかっこよくてぇ、すっごいリナに優しくってぇ、チョー幸せだったんですよぉ」

左手をヒラヒラさせ、これ見よがしに指輪を見せつけつつ言う。

…まだ私を扱き下ろし足りないのかな。


でも、ごめんなさいね。
「私も幸せな旅行でしたよ、ふふ」

悔しさを表さない私の返答がおもしろくないのか、表情に少し苛立ちが見えた。

「ぇ…それほんとですかぁ?てゆーか誰と行ったんですかぁ?まさか一人旅だったりしてぇ」

「いいえ、婚約者と2人で泊まりましたよ。うふふっ」

…うん、まぁ結果的には〝婚約者〞ってことで、嘘じゃないよね。
なんて私も負けず嫌いだなぁ、あはは。

「それ嘘「えっ!シノ、マジかよ!婚約者とか初めて聞いたぜ!? 誰だよ、俺の知ってる奴!?」

と興奮気味に食い付く岸くんに言葉をかき消されたリナさんが何かを言おうとしたその時、オフィスに総務部長が入ってきた。

「朝礼始めるぞー!」

それを聞いたリナさんは「あっ、今日ってイケメンが来るって噂じゃん!こんなオバサンの相手してないで最前ゲットしなきゃ!リナをアピらないと!」と言い放ち、霧ちゃんのトゲトゲした視線を浴びながら去っていった。


「…人妻がアピる必要ないだろ……林田もよくまぁあんな女と結婚したよね。あー、デキ婚に持ち込まれたんだっけか。あの女もよくやるわ」

「相馬さんて、この前から林田さん達にすげー毒吐いてますよね…何か恨みでもあるんすか?」

「べっつに。あいつらと馬が合わないだけよ。…ほら、岸、朝礼始まるわよ」

と、まぁ普段と変わらない雰囲気だったんだけど…

この朝礼が驚きの連続だった──

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