空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
何で……か。
確かあれは…
「大学の時は家具のデザイナーになろうと思ってたんだ」
「あぁ、そうなんだ」
「…でね、就職先を決める頃に、当時の彼氏の浮気が分かったの」
「…あぁ」
「大学の同級生だったんだけど、彼氏も家具のデザイナーを目指してて、浮気相手も同じ専攻の子で……私の行きたかった会社をその2人も狙ってるって分かって……どうしようか悩んでたんだ」
「…確かにそれは厳しいな」
「でね、お兄ちゃんにその事を愚痴ったの、ふふっ。そしたらお兄ちゃんが『いいモノ見せてやるから、そんなダメンズなんかお前から捨てろ』って言って、展示会のチケットを送ってくれたんだ。東京でやってるから見てこいって」
「展示会?何の?」
「それがTOKIWAだったの。会場がTOKIWA本社別館のショールームでね。その時は特別展だったみたいで、過去のTOKIWAのデザイナーさんの製品も一堂に展示してあったの」
「へぇ…」
「食器ってそれまであまり携わらなかったから興味もあって見に行ったんだ」
「そう。それで、どうだった?」
「創業者さんの作品も個性的でよかったんだけど、創業者さんの娘さんの作品がすごく素敵で、うっとり見惚れちゃった。ふふ」
「ふ……そっか。那知はその人の作品が気に入ったんだ」
「うん。デザインがとっても繊細だったりやわらかかったり、カラーもシンプルだけど温かみがあってね。すごく私の好みなのもあって、見ていたらワクワクとドキドキとほっこりで、元彼の浮気とか嫌なことも忘れちゃってた」
「ははは、それはすごいな」
「うん。それで、その方の作品をひとつひとつじっくり見ていたら、スタッフの女性に『この人の作品が気になりますか?』って話し掛けられてね」
「へぇ」
「それが霧ちゃんだったんだ」
「ぶっ!……あっ、そう…へぇ…」
「私も興味があったから色々お話を聞いたの。その作品の作者さん、常磐 美土里(ときわ みどり)さんていう方でね。お会いしてみたかったんだけど、若くしてお亡くなりになってたそうで…」
「うん…それで、那知はTOKIWAに入社を?」
「ふふっ、そうなの。この時に霧ちゃんと意気投合して、それから仲良くさせてもらってね、就活で会社やお仕事のことも教えてもらってたの。何より美土里さんの作品が忘れられなくて、ここで働けたら幸せだろうなぁ、って思ったんだ」
「そっか……ありがとな」
「え?何が?」
「…いや、そうやってTOKIWAを気に入ってくれて」
?……あ、そっか。
「そうだよね、十和田ホールディングスの子会社だもんね」
「ふ、それはまぁ追い追い」
「……?…うん…」
何が〝追い追い〞なのかわからないけど、何だか賢太郎さんが嬉しそうだからいっか。