空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
『華屋旅館』の離れに1人で滞在を始めて3日目のこと。
隣の部屋(離れ)に一組の家族がやってきた。

それが、那知の家族だった。



その日も俺は岩場に座って海を見てた。

何も考えずボーッとする時と、どうしようもない思いに悩んだりしている時が、交互に訪れる。


はぁ……

ため息を吐いた時だった。

「君、大学生?」

そう横から声を掛けられた。
見ると、俺と変わらない位の若い男だった。


「はい……」
俺の覇気のない返事にも、彼はくりっとした目の人懐っこい笑顔で言った。

「俺も!俺は4年。…君、うちの隣の離れに泊まってるんだろ?よかったら一緒に遊ばないか?」

「え……いや俺は…」

「今、スイカ割りやるんだけど、君もおいでよ!」

……強引に手を引かれ、俺より10㎝くらい背の低い彼に、半ば無理やり連れてかれた。


そう、この彼こそが勇貴さん。

そして連れていかれた先に、那知とご両親がいた。

「急に誘ってすまないね、こういうのは多い方が楽しいから」

と親父さんに言われ、珍しく〝まぁ…たまにはいいか〞と思えた。

いや、俺がそう思うとか、本当に珍しい事なんだよ。
普段こんな誘いは断るはずなのに、この時は直感で〝断るのは勿体ない〞と思ったんだ。


それで仲間に入らせてもらったんだけど……それがすげぇ楽しかったんだ。

那知も、勇貴さんも、ご両親も。
心から出てくる素直な言葉を言い合って、笑いあって。


あぁ、あったかいな……って、いつぶりか分からないくらい久しぶりに、心がじんわりしたんだ。

それはまだ母さんが生きてた頃に感じてた、家族のあたたかさ、みたいだった。


そして、最初は俺によそよそしかった那知も、一緒に遊んでいる内にうちとけて、すぐに「ケンちゃん」と呼ばれる様になった。

当時は兄である勇貴さんの事を「ゆうちゃん」て呼んでたから、その流れで俺も「ケンちゃん」になったんだろうな。


俺の後ろを「ケンちゃん、ケンちゃん」とついて回り、素直に甘えたかと思えば、時に「ケンちゃんはもう大人なんだから、こういう時はもっとはっきりとした態度の方がいいと思うよ?」とアドバイス(笑)してくれたりと、豊かな感情を見せて懐いてくれた中学生の那知を、正直、可愛いと思った。

…愛しいと思った。


それは初めての感情で、俺にはそれが恋愛感情なのか、わからなかった。

だって、まともに女を好きになったこともなければ、女を抱くのに愛だの恋だのと考えたこともなかったからな…

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