空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
滞在中、俺は勇貴さんとお互いの大学の話をしたり、那知に英語を教えたり、親父さんとお袋さんから建築の仕事について聞いたりと仲良くさせてもらってた。
気付けば、俺は1人になりたくてここへ来た筈なのに、俺も那知の家族の一員になったみたいに一緒にいることが当たり前になっていて、それが楽しくて嬉しかった。
…けど本来の悩みが無くなったわけではないから……1人になると急に不安が押し寄せてきた。
夕方、一人で海に行き、岩場に座って海を見てた時……那知の親父さんが声を掛けてきたんだ。
「何か悩んでるみたいだな。…こんなオヤジでもよければ話を聞くよ」
と、俺の隣に座った。
俺は……本当は親父を頼りたかった。
でも相談なんて聞いてくれないだろう、あの人は…
だから、那知の親父さんにそう言って貰えたことが嬉しくて…
夕日に照らされた海を見ながら、俺は自分の事を洗いざらい話した。
父親が十和田ホールディングスの社長で、幼い頃から跡継ぎだと言われていること。
そして…
敷かれたレールに乗っているだけでいいのか悩んでいること…
親父さんは相槌を打ちながら話を止めずに最後まで聞いてくれた。
そして、父親としての思いというものを俺に教えてくれたんだ。
「…親にとって子どもは何ものにも代え難い宝なんだよ。だから…いつだって大事で心配なんだよな」
「心配…」
「うん。俺もな、勇貴と那知には無駄に辛い思いをさせたくないと思ってんだ」
「はい…」
「けど俺は、子ども達に〝行きたい道〞があるのなら、それがどんな茨の道だとしても応援するよ。あぁ、理不尽に辛い思いをするのなら話は別だよ」
「はい」
「…俺はこういう考えだけどな、子どもがかわいいが故、人生に迷わないように選択肢を与えず道を作る親もいるし、中には自分が果たせなかった夢を子どもに託す親だっている」
「………」
「でも、それが〝子どものため〞と思ってるからなんだよな。こうすれば幸せな人生を歩めるぞ、って。…まぁ『親の勝手』と言われればそれまでだけど」
「子どものため…」
「あぁ。ただな、親だって人間だ。しかも、完璧な人間なんていやしない。だから…そのやり方や思いってのは人それぞれだし、何が正解かなんてわからないんだ」
「はい」
「賢太郎くんのお父さんは、自分の生きてきた道が間違っていなかったと思っているからこそ、己が道標となり、息子である賢太郎くんに同じ様に生きてほしかったんじゃないかな。…それを〝跡継ぎ〞という言葉を使って、半ば強制的に進ませたというか。…まぁ私の個人的な意見としては、人生を勧めるのがちょっと早い気がしなくもないがね」
俺のため…
親父は俺を自分の分身の様に動かしたかったんじゃないのか…
「俺は…物心ついた時から『十和田ホールディングスの跡を継げ』と言われてきて…敷かれたレールにただ乗っているだけで……本当にそんなのでいいのかな…って」
「うん。でもそれはもう、賢太郎くんが作っている道なんじゃないかな」
「俺が作ってる…道…?」
「うん。賢太郎くんがこれまで頑張って歩んできた道は決して簡単なものじゃないし、敷かれたからといって誰もが歩ける道じゃないんだよ」
「…………」
「確かにお父さんの導きから始まったと思うよ。でもな、そこに乗っているだけでなく、しっかりと自分で選んで進んでいるんだよ、賢太郎くんは」
「俺が…自分で選んで…進んでる…?」
「あぁ、そうだよ。だって、そのレールは外れようと思えばいくらでも外れることはできる。逆に外されてしまうことだってある。…だけど、そのレールにしっかりと乗っているということは、自分が選んでいるからこそなんだ。どんな経緯があろうと、今の賢太郎くんがあるのは、この道にいることを自分で選び、ちゃんと自らの手で、道を切り開いているからなんだよ」
「自分で選んで……自らの手で…道を切り開いてる…」
「それを自分で気付くのは難しいよな。でも賢太郎くんはちゃんと自分の脚で立ってるよ。そうやって悩んでいるのがその証拠だ。…だからもうこれは賢太郎くんが選んで、自ら進んでいる道なんだよ。大丈夫、自信持っていいぞ!」
と、まっすぐに俺の目を見て言ってくれた。
すると、ずっと心に淀んでいた「こんな人生でいいのか?」という、不安と後ろめたい気持ちが消え…自分の進む道を前向きに捉えることができた。
「おじさん……ありがとうございます。俺……誰にも…親父にも言えなくて…」
「親にも言えないのは辛かっただろう………よし!ここにいる間だけでも私を親父と思って、もっと何でも言ってごらん」
「えっ…でも……」
「勇貴と那知に1人増えたくらい変わらないさ、ハハハ。……おっ!そうだな、じゃあ賢太郎くんがお父さんの跡を継ぐ気持ちが固まったら、那知を嫁にくれてやろうか。そうしたら本当に賢太郎くんの親父になれるしな、ハハハ」
「えぇっ!?」
「何だ、うちの娘はお気に召さないか?あいつは素直だし、うちの奥さん似で可愛いぞ?」
「いやいや、逆に俺が那知ちゃんに嫌だって言われますよ」
「そうか?那知は賢太郎くんに懐いてるだろう?」
「それは兄みたいなものだから…」
「いや、あれは賢太郎くんに惚れてると思うがな……あぁそうか、ハタチの賢太郎くんから見れば、中学生なんてまだまだ子どもかぁ」
「いえっそんなこと!…那知ちゃんは可愛いです。素直で純粋で……話しているとホントに心が洗われるんですよ。…今までこんないい子に会ったことないです」
お世辞なんかじゃない。
俺、本当にそう思ったんだ。
もしかしたら、マジで惚れ始めてたのかもしれない。
「そうか……じゃあ、もう少し年頃になったらよろしく頼むよ。賢太郎くんに本当に『お父さん』て呼ばれる日が来たら嬉しいんだがなぁ」
なんて言われて、それこそお世辞でも嬉しかった。
気付けば、俺は1人になりたくてここへ来た筈なのに、俺も那知の家族の一員になったみたいに一緒にいることが当たり前になっていて、それが楽しくて嬉しかった。
…けど本来の悩みが無くなったわけではないから……1人になると急に不安が押し寄せてきた。
夕方、一人で海に行き、岩場に座って海を見てた時……那知の親父さんが声を掛けてきたんだ。
「何か悩んでるみたいだな。…こんなオヤジでもよければ話を聞くよ」
と、俺の隣に座った。
俺は……本当は親父を頼りたかった。
でも相談なんて聞いてくれないだろう、あの人は…
だから、那知の親父さんにそう言って貰えたことが嬉しくて…
夕日に照らされた海を見ながら、俺は自分の事を洗いざらい話した。
父親が十和田ホールディングスの社長で、幼い頃から跡継ぎだと言われていること。
そして…
敷かれたレールに乗っているだけでいいのか悩んでいること…
親父さんは相槌を打ちながら話を止めずに最後まで聞いてくれた。
そして、父親としての思いというものを俺に教えてくれたんだ。
「…親にとって子どもは何ものにも代え難い宝なんだよ。だから…いつだって大事で心配なんだよな」
「心配…」
「うん。俺もな、勇貴と那知には無駄に辛い思いをさせたくないと思ってんだ」
「はい…」
「けど俺は、子ども達に〝行きたい道〞があるのなら、それがどんな茨の道だとしても応援するよ。あぁ、理不尽に辛い思いをするのなら話は別だよ」
「はい」
「…俺はこういう考えだけどな、子どもがかわいいが故、人生に迷わないように選択肢を与えず道を作る親もいるし、中には自分が果たせなかった夢を子どもに託す親だっている」
「………」
「でも、それが〝子どものため〞と思ってるからなんだよな。こうすれば幸せな人生を歩めるぞ、って。…まぁ『親の勝手』と言われればそれまでだけど」
「子どものため…」
「あぁ。ただな、親だって人間だ。しかも、完璧な人間なんていやしない。だから…そのやり方や思いってのは人それぞれだし、何が正解かなんてわからないんだ」
「はい」
「賢太郎くんのお父さんは、自分の生きてきた道が間違っていなかったと思っているからこそ、己が道標となり、息子である賢太郎くんに同じ様に生きてほしかったんじゃないかな。…それを〝跡継ぎ〞という言葉を使って、半ば強制的に進ませたというか。…まぁ私の個人的な意見としては、人生を勧めるのがちょっと早い気がしなくもないがね」
俺のため…
親父は俺を自分の分身の様に動かしたかったんじゃないのか…
「俺は…物心ついた時から『十和田ホールディングスの跡を継げ』と言われてきて…敷かれたレールにただ乗っているだけで……本当にそんなのでいいのかな…って」
「うん。でもそれはもう、賢太郎くんが作っている道なんじゃないかな」
「俺が作ってる…道…?」
「うん。賢太郎くんがこれまで頑張って歩んできた道は決して簡単なものじゃないし、敷かれたからといって誰もが歩ける道じゃないんだよ」
「…………」
「確かにお父さんの導きから始まったと思うよ。でもな、そこに乗っているだけでなく、しっかりと自分で選んで進んでいるんだよ、賢太郎くんは」
「俺が…自分で選んで…進んでる…?」
「あぁ、そうだよ。だって、そのレールは外れようと思えばいくらでも外れることはできる。逆に外されてしまうことだってある。…だけど、そのレールにしっかりと乗っているということは、自分が選んでいるからこそなんだ。どんな経緯があろうと、今の賢太郎くんがあるのは、この道にいることを自分で選び、ちゃんと自らの手で、道を切り開いているからなんだよ」
「自分で選んで……自らの手で…道を切り開いてる…」
「それを自分で気付くのは難しいよな。でも賢太郎くんはちゃんと自分の脚で立ってるよ。そうやって悩んでいるのがその証拠だ。…だからもうこれは賢太郎くんが選んで、自ら進んでいる道なんだよ。大丈夫、自信持っていいぞ!」
と、まっすぐに俺の目を見て言ってくれた。
すると、ずっと心に淀んでいた「こんな人生でいいのか?」という、不安と後ろめたい気持ちが消え…自分の進む道を前向きに捉えることができた。
「おじさん……ありがとうございます。俺……誰にも…親父にも言えなくて…」
「親にも言えないのは辛かっただろう………よし!ここにいる間だけでも私を親父と思って、もっと何でも言ってごらん」
「えっ…でも……」
「勇貴と那知に1人増えたくらい変わらないさ、ハハハ。……おっ!そうだな、じゃあ賢太郎くんがお父さんの跡を継ぐ気持ちが固まったら、那知を嫁にくれてやろうか。そうしたら本当に賢太郎くんの親父になれるしな、ハハハ」
「えぇっ!?」
「何だ、うちの娘はお気に召さないか?あいつは素直だし、うちの奥さん似で可愛いぞ?」
「いやいや、逆に俺が那知ちゃんに嫌だって言われますよ」
「そうか?那知は賢太郎くんに懐いてるだろう?」
「それは兄みたいなものだから…」
「いや、あれは賢太郎くんに惚れてると思うがな……あぁそうか、ハタチの賢太郎くんから見れば、中学生なんてまだまだ子どもかぁ」
「いえっそんなこと!…那知ちゃんは可愛いです。素直で純粋で……話しているとホントに心が洗われるんですよ。…今までこんないい子に会ったことないです」
お世辞なんかじゃない。
俺、本当にそう思ったんだ。
もしかしたら、マジで惚れ始めてたのかもしれない。
「そうか……じゃあ、もう少し年頃になったらよろしく頼むよ。賢太郎くんに本当に『お父さん』て呼ばれる日が来たら嬉しいんだがなぁ」
なんて言われて、それこそお世辞でも嬉しかった。