空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~


「親父、何度も言ってるが、俺は那知と結婚するから」

「…まぁ待ちなさい。まだ私は那知さんの事を何も知らないんだ。…那知さんはお仕事をされているのかな。賢太郎は何も教えてくれなくてね」

と、お父様が穏やかに私に話を振って下さった。

「はい。現在、賢太郎さんが代理で社長を務めておられる株式会社TOKIWAで、デザイナーとして働いております。賢太郎さんの妹さんの霧子さんには入社する前から大変お世話になっておりまして、現在も先輩として、お友達として、親しくさせて頂いてます」

「あぁ、霧子の…ほぅ、そうかね…。那知さんはとても若くお見えだが、ご年齢は?」

「28歳です。賢太郎さんの6歳下になります」

「そうですか。それで…那知さんはなぜ賢太郎と結婚したいと?」


賢太郎さんに似たダンディなおじ様だが、射貫く様な視線はさすが大企業の社長らしいと、冷静に思う。

きっと正直に言えばいい印象にはならないと分かってはいるが、私は何も隠したくなくて……全部お話しすると決めた。

「私は…先月まで別の男性と約2年お付き合いをしていましたが、婚約する直前で相手に好きな人ができたからと別れを告げられました。その人は、私と別れた翌日に他の女性と入籍しました。それで私は…私の存在は何だったのだろうと……自分の存在意義が分からなくなりました。でも賢太郎さんはそんな私を…私の存在を認めてくれて…それで私は自信を取り戻すことができたんです。…私は、私を救ってくれた賢太郎さんを心からお慕いしています。そして賢太郎さんも私を必要としてくれています。だから私は賢太郎さんのお側にいたいと思っています」

…ふぅ……
何て思われるか不安の方が大きいけど、言うべき事は言い切れたと思う。


「先月?…つい最近だね。…それでもう結婚とは……そう急ぐのは何故だね」

「親父、早く結婚したいと言い出したのは俺だよ。俺がもう那知と離れたくないんだ。那知を誰にも取られたくないんだ。だから俺が急ぎたいんだよ」

と、私の腰をグッと引き寄せた。

「賢太郎さん…」


「…那知さんはどうなんだい」

「私も賢太郎さんと同じ思いです。早く一緒になって、一番近くで賢太郎さんを支えたいと思っています」

賢太郎さんを見ると、嬉しそうな顔を見せてくれた。



私達の答えを聞いたお父様は、ふぅ…と軽く息を吐いた。


「賢太郎は十和田ホールディングスの跡取り、つまり次期社長だ。それは那知さんもご存知だろう」

「はい。存じております」

「となると…家としてもそれなりの相手が必要でね。賢太郎には昔から許嫁がいるのだが……それは聞いておりませんかな?」

「だから俺は最初から断ってきただろ!」

「賢太郎。我儘を言うのはお前らしくないな。お前はずっと私の言うとおりにやってきたじゃないか」

「親父の言うとおり?いや、そうじゃない。俺は、俺の道を、俺が選んで、頑張って進んできた。…それがただ親父の希望に沿ってただけだ。俺は親父の操り人形じゃないからな」

「ハハ…遅れてきた反抗期か、賢太郎。…だが、お前が那知さんを選んだら紅羽さんはどうするんだ。お前の許嫁だからと、他の誰ともお付き合いをせんでここまで来たんだぞ。どう責任を取るつもりだ」

「だから俺はずっと言い続けてきただろ。『紅羽とは結婚しない、待っても無駄だ』と。…俺の意思も気持ちも無視して勝手に待ってたくせに俺のせいにするな!」


初めて見る賢太郎さんの剣幕とこれからの展開にハラハラしていたら、いきなり部屋のドアが勢いよく開いた。

< 91 / 189 >

この作品をシェア

pagetop