空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

…だが、やはり紅羽さんは納得がいかない様だった。

「あなた、ご両親がいらっしゃらないの!?しかも地方の建築事務所ですって!?…その身分で御曹司の賢太郎と結婚するつもりだなんて……はぁ、これだから無知な田舎者は嫌ですわ。おじさま、これは会社としても十和田家としてもまずいのではなくて?」


まぁ…両親がいないことをさも悪い様に言う人が世の中にいることは知っている。
でも、私もお兄ちゃんも何も悪いことはしていないし、両親の事も尊敬しているから、私達は胸を張って生きている。

そう、負けない心を奮い起たせていると、賢太郎さんが大きなため息をついた。

「はぁー……両親がいないから何だと言うんだ」

「あら、賢太郎はご存じなくて?ほら、色々と常識とか…躾とか?お金も…ねぇ?言わなくてもわかるでしょう?」

「ハッ、わからねぇよ。那知もお兄さんも、亡くなったお父さんとお母さんも、人一倍常識的な考えを持った素晴らしい人達だからな。…ノックもなしにいきなり部屋に入ってきたり、勝手に他人に抱きついてくる様な躾のできてない輩とは違うんだよ」


…賢太郎さんが、会ったことのない私の両親を「素晴らしい人達だ」と言い切った事を不思議に思う気持ちもあったけど、それよりも嬉しくて胸がじんわりとあったかくなった。


しかしそんな私とは対照的に、自分の事を蔑まれたとわかった紅羽さんが、カッと顔を紅潮させた。

「賢太郎!いい加減に目を覚ましなさいよ!この人がお金目当てだと分からないの!?」


「はぁ……カネ目当てじゃねぇよ、何も困ってないんだから。な?那知」

そう賢太郎さんが私に振るということは、説明した方が良いと判断したんだろう。
この事は少し前に賢太郎さんに伝えておいて良かった。


実は私達兄妹にはそれなりの資産がある。
けど、それは誰にも話していなかった。
…もちろん尚人にも。
もし尚人と結婚したとしても、信用できるまでは何年であろうと言わないつもりだった。

…でも賢太郎さんには話しておきたかったの。
それで目の色が変わる人ではないと思ったから。


「あの、確かに両親はおりませんが、両親が遺してくれた財産と、あと父と母、両家の祖父母からも頂いているものがありまして、特に金銭的に困っているわけではありませんので…」

「な?…それに那知はほんと謙虚でさ、俺の方が色々と買ってやりたくなるんだよ」

「だからそういうのはダメです!」

とキッパリ言うと、切れ長のキリッとした目を、叱られたワンちゃんみたいにしゅん…と伏せるから…

「あっ…あの…じゃあ…それはあの……特別な時に…お願いしよう…かな…」

私が折れてそう言うと「あぁ良かった!俺が買ったのを身に付けて貰えるのが幸せなんだよな、那知は俺のもの!って感じでさ」と抱き締められた。

だっだから、紅羽さんの前でそれはちょっと…

と恐る恐る彼女を見ると、ワナワナと身体を震わせていた。

ひぃっ!


「おじさまっ、どうなさるおつもり?私を賢太郎の妻にしないと仰るなら父が黙っておりませんわよ?それにあの件からもアサトテーブルウェアは手を引くかも知れませんわ。それでもよろしくて?」


「…親父、何の話だ」

「あぁ、賢太郎が来たことだし、今日TOKIWAにも話すつもりだったんだが」

「そうですの!?アサトだけのお話でなくて!?」

「そうだが……それは娘から聞いていないかな?社長にはそうお話ししたと聞いているが」


お仕事のお話かぁ…

事の成り行きを見守ることしかできずにいると、ドアをノックする音がした。

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