空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~
「プッ!あれだけ何だかんだ言っておいて結局逃げるのね。まぁ、負け戦と分かっているのなら賢明な判断だと思いますけど。…では賢太郎のことも諦めますのね?」


そう詰め寄られ、私の思いも伝えなければ…と思ったその時、紅羽さんの問い掛けを遮り、意外な人物から声が掛けられた。


「まあまあ、紅羽さん落ち着いて。…那知さん、なぜ受けないのかね。理由があれば教えてくれないか」

…てっきり賢太郎さんがそういうことを言ってくると思ってたのに…
聞いてきたのはお父様だった。


だから、私は思っていたことを素直に答えた。


「はい。……この新しい施設は主にファミリー向けだとお聞きしました。きっとお越しになるご家族が、かけがえのない楽しい時間を過ごされることでしょう。……そんな大切な場所を、このような私的な争いに使いたくないんです」


「那知…」

「…なるほど。那知さんの考えはわかったよ」


「…ですので良美さん、かなめさん。ここはひとつ、デザインコンペにしていただけないでしょうか!」

「デザインコンペ?」

「はい!その、賢太郎さんの妻の座とかそういうのは別の話として切り離し、これはこれで、新しい食器のデザインをコンペ形式でお願いしたいんです。…あっ、もちろんコンペなので、アサトさんとTOKIWAだけでなく他社さんも入って貰って構いませんし、その方がより素敵なものが出来上がるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか!」

身を乗りだし、そう言い切ったが、しん……と静まりかえった空気に、ハッと我にかえった。


やっ…やっちゃったあぁ!

しかもTOKIWAの社長である賢太郎さんを差し置いて勝手に!

あわわわわ……

…そぉっと…おそるおそる賢太郎さんを見ると、優しい笑顔を返してくれて「さすが営業との同行は伊達じゃないな」と、私の頭をポンポンと大きな手のひらで撫でてくれた。


「良美さん、姉貴。今の那知の提案、どう思う?」


「私は賛成よ。かなめちゃんは?」

「私もコンペに賛成よ。その方がビジネスとして冷静に判断できるしね」

「じゃあコンペで決まりだな。…紅羽もそれでいいか?」

「…わかりましたわ。食器の件はコンペということにいたしましょう」


「話はこれで終わりか?……じゃあコンペについては、期日、コンセプト、規格等の詳細を後日知らせてもらうってことで姉貴、いいかな」

「えぇ。近い内にお知らせするわ。あっ、さっき那知ちゃんからは他社もと言ってもらったけど、華舞で取引のあるアサトさんとTOKIWAさんの2社になると思うわ。私達は両社のセンスを信頼してますから」

「わかった。……じゃあ俺達は帰るよ」

「ああ、賢太郎、仕事の件で話がある。お前は少し残ってくれ」

ソファから立ち上がった賢太郎さんを、お父様が呼び止めた。

今度こそ私に関係のないお仕事のお話みたいだね。

「じゃあ私は先にロビーに戻ってるね」
「…あぁ、ごめん。俺もすぐに行くから」

頭を撫でてくれる賢太郎さんに微笑みを返すと、私は鈴蘭の間を後にした。
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