空色の手紙は執着愛の証 ~溺愛は再会とともに~

「…あれは…賢太郎が20歳、私が16歳の時の冬でしたわ、私達は許嫁だとお父様達に言われましたの。でも賢太郎は言われるや否やすぐに断ってきましたわ。結婚したい女性がいるから、と」

「…その年齢で…ですか」

「ええ。それで私、見てしまったのよ。賢太郎がその人に宛てて書いた手紙を」


手紙…?


「…確か…賢太郎がアメリカの大学を卒業してこっちに帰って来た頃でしたわ。アサトの祝賀パーティーに賢太郎がおじさまと出席されて」


「はい」

「それでパーティーの後、別のお部屋で歓談していた時、賢太郎が手帳をテーブルに置き忘れたまま席を立ったから、私が届けなきゃ、と手にしたの」

「はい」

「その時に手帳から折り畳まれた紙が落ちて、特に何も考えずにそれを拾って開いたら……それが〝Dear Nachi〞から始まるラブレターでしたの。…詳しくは覚えてないけど…2人でした結婚の約束を覚えているか、とか、側にいてほしい、みたいな内容で。…頭にきて破こうかと思ったけど…バレて怒られるのも嫌ですし、見なかった事にして戻しておきましたの」


「………」


〝Dear Nachi〞


私と同じ名前の女性…と……

結婚の約束……



「だから、あなたの名前を聞いて、もしかしたらあなたが賢太郎の想い人なんじゃないかって思ったのだけど…よく考えたらあなたって私よりきっと年下ですわよね?」

「はい。私は28で、賢太郎さんより6歳下です」

「そう…それなら当時大学生の賢太郎の想い人になるわけないですわね!あぁ、良かったわ。どうしてもその人には勝てないんだもの」

「でもそれは昔の話では…」


「それが私、2年前にも見ましたの。手帳に挟んであるあの手紙…。開いて中を確認した訳ではないけれど、確かにあの時に見た水色の懐紙でしたわ」

「懐紙?」

「そうですの、水色というか薄いブルー…そう、空色の懐紙に書かれてますの。懐紙かどうかは私もたまに使うから見ればわかりますわ。でも…それを出さずにまだ持ってるだなんて、これはもう執着としか言いようがなくてよ」



懐紙……

空色の……懐紙……手紙……


っ!…え?……何これ…頭が…ぐるぐる…


ズキンッ!

「っ!」


「…那知さん?どうされましたの?」


「……いえ、少し頭痛が……でも大丈夫…です」

ぐわんぐわん揺れながら、ズキン!ズキン!と割れるように痛む頭を両手で押さえながら、何とか答えた。

何これ……
頭痛と眩暈……こんな酷いのなんて初めて…

座った姿勢すら保つことができず、そのまま頭を抱えて、ソファの背もたれに寄りかかった。


「それは大丈夫って言わないから!賢太郎を呼んでくるわね!」

「あっ……それは……お仕事のお話し中だから……それに…休んでいれば……大丈夫ですから…」

今は迷惑はかけられないと…咄嗟に答えた。

「じゃあ薬!鎮痛剤なら私持ってるわ、市販のロキソプロフェンのやつだけど」


「大丈夫です……すぐに…治まると思いますので……ありがとうございます」


大丈夫……
これくらいならじっとしていれば…治るはず…

そんな私に紅羽さんはお薬とお水を持ってきてくれたり、私から数歩窓側に立ち、直射日光が私に当たらないように盾になってくれていた。

…強い日射しが少し気になっていたから、それがとてもありがたかったし……よく気がつく方なのだと…思った。
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