婚約破棄されたら、高貴な紳士に極上な愛を注がれました。
「……そうですか。では婚約破棄承りました。私から父には伝えますのでご安心を」
「ふんっ、最後まで可愛げもない奴だな! お前のようなやつは、貰い手はないだろうに! まぁ、いい! ちゃんと伝えておけよ」
「はい。分かっております」
私はそう言えば、来た道を戻る。
今日は霜田社長も社長夫人もいないので、そのまま戻ろうとしたが「あら、陽鈴さん」と可愛らしい声が私を呼んだ。
「……莉来さん」
この人は霜田莉来さんといって帆楽さんの義理の妹だ。霜田社長が外で作った子供で一般人として暮らしていたが、母親が事故で亡くなり引き取ったのはごく最近のことだ。
「ふふ、お義兄さまとのお話は終わったの?」
私が婚約破棄されることをわかっている口ぶりだ。
それによく見れば彼女の首筋や服から見える鎖骨にキスマークらしいものがある。わざわざ見せるために見える服にしたのだろう。
「えぇ、そうですよ。婚約破棄を言い渡されましたのでもう莉来さんとも会うことはないと思います」
「あらぁ〜残念だわ。陽鈴さんと家族になりたかったのに」
「私が至らないばっかりにすみません」
私は最後まで彼らに微笑むことなく、もう来ることはないだろうと思う霜田家を出た。