婚約破棄されたら、高貴な紳士に極上な愛を注がれました。



「――母は、俺を産んでから体調が崩しがしになっていたらしく寝込んでいた。だけど、父は母を別邸へ追い出し見舞いすら来なかったんだ。それどころか、愛人を連れ込み住まわせていた。それから、体調が悪くなり一年で亡くなった。最後の最後まで、父は来なくてね、寂しそうだったよ」


 母は最期、切なそうに笑っていた。本当は、俺じゃなくて父にそばにいて欲しかったんだと思う。

 どれだけ、扱いが酷くても母は父を愛していたから。
 そう、昔話を伝え終わり陽鈴ちゃんを見るとポロポロと大粒の涙を流していた。



「……っ、陽鈴ちゃん、どうして」

「だ、だって……ごめんなさい、辛いのは、透冴さんと透冴さんのお母様なのにっ」


 陽鈴ちゃんは涙を流しながら涙声で、途切れ途切れで言葉を紡いでくれた。俺と母を想って泣いてくれたのは、初めてだった。


「私は……恵まれていたから。両親は仲が良かったから、透冴さんの気持ちが理解出来ないことが申し訳ないっ」

「それが普通だよ、陽鈴ちゃん。だから、君が申し訳ないと思うことはない。俺は、そう陽鈴ちゃんが思ってくれるだけでとても嬉しい。想って泣いてくれてありがとう」


 俺は彼女が愛おしく感じてぎゅっと抱きしめた。こんな純粋で透明な子を俺の復讐(事情)のためにいろいろ巻き込むことに申し訳なく感じる。

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