秘めごとは突然に。
「オマエ、篠宮美波……だな?」

「いえ、違いますけど。人違いじゃないですか?」


私はしらこい顔をして平然と嘘をついた。こんなのバカ正直に答えるわけがないでしょ。ほら、もうどっか行ってよ。知らないよ、篠宮美波なんて。

今だけ自分の名を捨てます──。


「尾関文哉の女だろ、オマエ」


一瞬、ほんの一瞬だけ動揺が隠せなかった。アイツ、何やからしたのよ──。


「違いますけど」

「あ?」

「だから、違いますけど」


間違ったことは言ってない。もう、『文哉の女』ではないから。それに、文哉の女ってレッテルを貼られてるのが癪に障るっていうか、不快でしかない。


「あ?調べはついてんだよ」

「随分と甘い調べなんですね」

「あ"?」


眉間にシワを寄せて私にガンを飛ばしてくる男。そもそも怒りたいのはこっちなんですけど。『文哉の女』なんて不名誉をいつまで背負わなきゃいけないわけ?だいたい、いつまで私の肩握ってんのよ。

私は肩に乗ってる男の手をパンッ!と払いのけて睨み付けた。


「いつまで触ってんのよ」

「てめぇ……女だからって何もされねえと思ってんだろ。言っとくけどなぁ、そんな甘い世界じゃねえんだわ」


アイツと別れて、ようやくストレスから解放されたと思ったのに、またアイツのことで苦しまなきゃいけないの?理不尽にもほどがあんでしょ、これ。

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