令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を
「ルーク?」
「ほら、言っただろう」
降り立ったルークが翼をはためかせ、風を巻き起こしてヴィタの頬に触れる。
「君にしか作れないって。僕を愛してくれたからこの彫刻が出来たんだ」
星の瞬き。
この生きる大地と同じで、太陽の光がなくては生きられない星の人。
灼熱の愛を持つその人は、一度堕ちた身でありながら愛を取り戻し、麗しき背に白い翼となった。
「12の翼……」
「もう古き習慣にとらわれなくていい。君の努力も目標も尊いもので、先駆者として願いを叶えたんだ」
見てごらん、とルークがささやくとヴィタの彫刻の頭上に12の星の冠が輝いていた。
それは天からの祝福であり、明けの明星を正しき愛の象徴として受け入れた証である。
光と影をみて、ヴィタは彫刻をこめた想いが具現化したと涙を流す。
「ごめんなさい……。私、あなたのこと……」
楽園から追放されし者と見ていた。
それでもそのあくどささえ愛おしくて、抱きしめたいと祈りを捧げた。
狂おしい瞳の奥にある本来の輝きを表現したい。
ヴィタにとって今後覆ることのない“美しさの完成形”であった。
「僕はどちらにでも転ぶ危うい存在だった。いや……むしろ長い時間、業火の中にいた」
ポロポロと涙をこぼすヴィタの目元を親指で撫でて、そっと額に唇を落とす。
「狂った先に僕を見つけてくれた。君の情熱が世界を変えるんだ」
あたりを見渡すと、そこには人々が膝をつき、天に手を伸ばしていた。
男も女も、皆が涙を流し感極まった様子で歓びを叫んでいた。
前年度優勝者の男は俯き、拳を震わせている。
そこに他の彫刻家仲間が集まってきて、男の肩を叩き、目を細めて彫刻を見つめていた。