令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を
「すげぇよな。こんなにも突き刺すような愛で出来た彫刻ははじめてだ」

「ーーっ俺は」

「男も女も関係ないんだ。オレにはこれに勝るものが彫れると思えないよ」

「……負けた」


男が圧倒的に優位な世界で女への敗北は屈辱的なもの。

だが反発さえ出来ぬほど、完成された美しさの前で男は無力に打ちひしがれた。

彫刻家として夢を抱き、美しさの高みを目指す。

その先にたどりついた境地を壊せるほど男に度胸はない。

芸術への誇りは尊いのだと、男は負けを知り、意地で涙を拭っていた。


「次は負けない。天の御使いにも勝る美しさにたどりついてみせよう」


スッとヴィタの前に握手を求めて手が伸びる。

それをヴィタはくすぐったそうに笑って、そっと握り返した。

割れんほどの拍手と歓声があがり、誰もがヴィタの彫刻が優勝となることを望んだ。

前向きに勇気をもち、自分の想いを信じてたどりついた。

女だからと諦めずに突き進んだことで、ヴィタはようやく弾けるような笑顔を浮かべ、ルークに抱きついた。

ルークはやわらかな翼を持ってヴィタを抱きしめ返す。

愛に満ち、見つめあう二人の姿は険しい道を這いつくばってようやくたどりついた幸福なのだと人々は祝福した。


こうしてヴィタの彫刻は優勝となり、後に大聖堂の象徴として長きに渡り君臨することとなった。
< 25 / 33 >

この作品をシェア

pagetop