令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を
お祭り騒ぎの品評会が終わり、夜になると昼間の盛り上がりが嘘のように静かな空間となった。

大聖堂へと移動した彫刻を見送って、ヴィタはルークの腕に抱かれて星の瞬く空を駆けた。

純白の12の翼。

最も愛された者が持つ輝きにヴィタは腹の奥がうずく感覚を知る。


(そっか。どちらに転がってもおかしくなかったのね)


恐れずに手を伸ばして良かったとヴィタは微笑んだ。

悪魔の誘惑のような甘さがあった。

ギラついた執着に怯えたり、飲まれたりしたこともあったが、それさえもルークなのだと受け入れていた。

たとえルークが追放されし者だったとしても良かった。

魂が震えた。

甘い誘惑だとしても。

ヴィタを落とそうとする囁きだったとしても。


心臓から伝わる鼓動は本物だった。

ヴィタに捧げる愛の深さを知り、全部受け止めようと決めた。

天使でも、悪魔でも、愛すると誓った。

ヴィタにとってルークは眩い光だったのだから、ルークにとっての光となりたかった。


「ルーク。あの丘へ私を連れてって」


星の輝きを瞳に映すヴィタを見て、わずかにルークは口を開く。

だが何も言わず、ヴィタの身体を抱き上げて空高く飛び始めた。

髪を結いあげていたリボンがほどけ、白金色の髪が波を打つ。

夜に溶け込む烏の濡れ羽色がつくる風にヴィタは目を閉じた。

それから丘にたつ大樹の下に降りたって、ヴィタはルークの頬を包み込み、幸福に満ちた微笑みをみせる。


「私と結婚してくれますか?」


その問いに、ルークは息を飲む。

弱々しく震える指先がヴィタのあたたかい手に触れた。


「君は悪魔をも愛すると言うの?」

「そうね。ルークにはいっぱい誘惑された」


でも、とキラキラ無邪気に歯を見せて笑う姿はまるで天使のようだった。


「それ以上にいっぱい愛をくれたから」


背伸びをして、薄い唇にちょこんとキスをした。

視線が交差すると、軽く触れただけの口付けは深くなり、飽きることもなく求めあった。

心臓を繋ぐように、舌を絡めあい、何度も糸を繋げては距離をなくした。
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