令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を
「男と女は違いを知るためのものでしかない。生き方、生き様に男女の区別なんてないんだよ」

「生き方……」

「この繊細で、愛情に満ちたものはきっと君にしか表現できない」


女性とは「すべての生きた者」の母であり、生み出す能力に長けている。

女性だからと卑下しても、その本質まではごまかせない。


「僕は美しいと思った。それではダメなのかい?」

「……そんなこと、はじめて言われたわ」


それを認めてしまえば心が壊れてしまう。

諦めなくてはならない現状に抗うことで、ヴィタは自分の心を守っていた。

泣いてしまえば嫌でも女を自覚せざるを得ないから。


「女の創るものに価値はない。ずっとそう言われてきた」


いつのまにかヴィタの心は巣食われていたようだ。

男女関係ないと口にしながらも、それに一番執着していたのは自分だったと気づかされる。

同時に、男の言葉に救われた。

女であることを受け入れ、なお表現してもいいのだと言われて涙となる。

ヴィタはずっと、ヴィタとして見てくれるのを求めていた。

その喜びはいままで押し込めていた分、大粒の涙となって流れていった。


「ありがとう。名前も知らない天使さま」


純粋な笑顔に対し、男は驚いて首を傾げる。

だがすぐに己の背を見て「あぁ」と納得したようにうなずいていた。


(これ以上、近づいてはダメ。私、おかしくなりそう……)

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