令嬢ヴィタの魂に甘い誘惑を
呼吸が荒くなり、ひどく耳鳴りがした。

手を伸ばしては危険だと察知しているくせに、まだ見ぬ世界を知りたいと欲を抱く。


「一つ、お願いをしてもいいですか?」

「うん?」


キラキラした目をしてヴィタは男の手をとり、眩く微笑んだ。


(逃げても私の望むものは創れない。だから――!)


この危惧にさえ、原因を追究せずに背を向けた。


「私の彫刻のモデルになってくれませんか?」


その申し出に男は目を細め、クスクスと笑い出す。


「いいよ。とてもおもしろそうだ」


高揚感にヴィタは酔いしれる。

この手で至高の存在を形に出来る喜びに気持ちが抑えられない。

あれほど抱いていた疑念はどこかへ飛んでいき、時間の感覚が歪んでいった。

飛び跳ねて喜ぶヴィタを見て、男はようやく名乗る。


ルーク。

光を意味する名前だった。
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