追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
王宮の外で、死にそうな男を拾いました



 完全な濡れ衣だ。私が国王陛下に毒なんて盛るはずがないのに。

 目の前には白い服を着た宮殿騎士団が列を成している。そして、ひときわ大きくて強面の騎士団長が私の首に剣を向けた。きらりと冷たく輝く刃先は、今にも私の喉元を付き破ってしまいそうだ。じわりと汗が背中を伝った。

 騎士団長の隣にいる、初老の大臣が私を見下して感情のない声で告げる。

「薬師アン。お前が陛下の食事に毒を入れた。間違いないな」

「いえ、違います!!」

 否定するが、冷たい刀をさらに押し付けられる。これ以上否定すると、本当に殺されてしまうだろう。私はぐっと息を飲み込んだ。

「アン。お前が今日、王宮を一人で彷徨いているのを見た者がいる。手には禍々しい毒薬の袋を持って」

「薬です!陛下は最近、肝臓が悪くいらっしゃったので……」

「黙れ」

 大臣は敵意に満ちた目で私を見下ろしながら、口だけ異様に歪める。そんな、なんとも恐ろしい笑顔とともに告げたのだ。

「それが事実ならば、自分が毒を盛ったと言っているようなものだろう」

 確かに大臣の言う通りだ。私は薬草を煮詰めて作った薬を持って、陛下のもとへ向かっていた。だが、扉を開いた時にはもう陛下は倒れていたのだ。完全なる濡れ衣だ、だが、私が一番怪しまれるのは言うまでもない。

 申し訳ありません。それでもやはり、私はしていません。こんなことを告げても、誰も信じてくれないことは分かっている。私はこのまま処刑されるのだろう。

「薬師アンを処刑台へ」

 大臣の声が響く。分かってはいたが、私はこうして理不尽な死を遂げるのだろう。
 死ぬんだ……怖いな……すごく怖い……


そんななか、

「お待ちください」

 聞き覚えのある声がした。顔を上げると、目の前には息を切らした師匠の姿。その長い白髪を夜風に靡かせ、皺の寄った顔で大臣たちを見ていた。いつも冷静な師匠だが、今日は少しだけ顔が赤い。

「アンが毒を盛るなんてこと、考えられませぬ」

 しゃがれた声が、凛と響いた。だけどこの老師匠の言うことなんて、誰も信じないのだ。もちろん、私が必死で弁明しても、信じてくれないのだから。

 私はきっと、このまま処刑されるだろう。でも、最後に師匠が信じてくださって良かった。みんなに誤解されたままではなく、私の味方が一人でもいるなんて。


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