追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

「アンちゃんは、ジョセフ様が好きなのね」

 ソフィアさんの急な言葉に、

「えっ!?」

思わず声を上げてしまった。そして、その言葉を理解すると同時にかぁーっと顔に血が上る。
 私は、ソフィアさんにジョーとの恋愛話をしたことはない。それなのに、ソフィアさんは知っていたのだ。

「ちっ、違います!」

 慌てて否定するが、ソフィアさんは楽しそうで、それでいてせつなげな瞳で私を見ている。

「ジョセフ様がアンちゃんを大好きなのは知っていたけど、ジョセフ様が来なくなってから、アンちゃんはずっと暗いわ」

 ソフィアさんにはバレバレだったのだ。私は間違いなくジョーに恋しているし、会えなくて寂しい。だけど、これからもずっと会えない日が続くのだ。

「ねえ、アンちゃん。
 ……悪いこと言わないから、オストワルに残らない?
 そのほうが、ジョセフ様にとってもアンちゃんにとっても幸せだと思うよ」

 きっと、私にとっては幸せだろう。だけど、こうやって引き止めてくれるのはいつもソフィアさんや街の人で、ジョーからはそんな話さえ聞いたことがない。
 それが、私が悩んでいる一番の理由だ。

「ジョーは、私がいなくてもきっと平気です」

 そうだよね。最強の騎士団長が、一人の女性がいなくなるだけで心を痛めていたら、騎士団は成り立たないだろう。
 ソフィアさんは、なおも

「そんなことないと思うけどなぁ……」

なんて譲らなかったが、そんな言葉をジョーの口から聞きたかったものだ。

「ソフィアさんに、手紙を書きますね。
 ポーレット領の近くに来られることがあったら、ぜひ遊びに来てください!」

 努めて元気に振る舞った。

< 103 / 180 >

この作品をシェア

pagetop