追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる


 オストワル辺境伯邸の前には、お兄様とポーレット領の騎士、そして、立派な馬車が停まっているのが見えた。馬車になんて乗ったことがない私は、急に侯爵の家族となり、馬車なんかに乗る身分になってしまったのだ。それが信じられなかった。
 馬車の近くにはセドリック様と、オストワル辺境伯領騎士団も集合している。オストワル辺境伯領騎士団の隊服を見た瞬間、どきりとした。きっとジョーだっているだろう。私は最後に、ジョーにどんな言葉を伝えればいいのだろうか。

「あっ、アンちゃーん!」

 セドリック様が私に手を振る。私は辺境伯領騎士団を見ないようにしながら、セドリック様の元へと歩み寄る。ジョーを見たら、泣いてしまうだろうから。

「アンちゃんが帰っちゃうなんて、悲しいよー」

 セドリック様は相変わらずチャラチャラと言うが、心からは悲しく思っていないだろう。だって、いつものようににこにこ笑っているから。

「今まで、大変お世話になりました。
 ポーレット領にもぜひ遊びにいらしてください」

 セドリック様に頭を下げる私の横で、お兄様も頭を下げてくださる。

「アンをこの地で暮らさせていただき、ありがとうございました。
 それに、僕にアンの存在を知らせていただいて……」

 その瞬間、

「あーっ!!」

 不意にセドリック様は大声を上げた。その大声が唐突だったため、私は驚いて飛び上がる。私だけでなく、お兄様もビクッと体を震わせた。
 それにしてもセドリック様は、どうしたのだろう。

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