追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「そうそう、アン。ジョーが寂しがってるよ?
僕はてっきり君とジョーが結婚するのかと思っていたけど……」
唐突すぎるセドリック様の言葉に、また胸がずきんとする。もちろんジョーと私の間には、結婚するだなんて話は出たことがない。だからきっと、私の自惚れだったのだろう。
「セドリック」
騎士団の一番先頭にいる男性が、イラついたようにセドリック様の名前を呼ぶ。だが、その声を聞いて我慢していた涙がどばっと溢れてきた。
「セドリック。余計なことを言うな」
セドリック様にそう告げるのは、紛れもなくジョーだ。私の大好きなその声を聞くと、必死で耐えていた心が粉々になった気がした。そして、見ないようにしようと思っていたのに、ジョーを見てしまう。
ジョーはいつもの隊服を着て、いつもの剣を腰に差していた。私を見ると、一瞬悲しそうな顔をしたが、普段のクールな顔になる。だけど私は耐えられずに流れる涙を、慌ててハンカチで押さえる。
「アン……」
甘く優しいその声で、久しぶりに名前を呼ばれた気がした。その声で名前を呼ばれると、胸が引き裂かれそうに痛む。
そして、こんな時に限って何泣いているのだろうと思う。ここで泣いてもジョーの負担になるだろうし、こんな時にメソメソしている女は嫌われるだろう。
……嫌われる?私はこんな時になっても、ジョーに嫌われないか酷く気にしているのだ。
なんて執着心が強い女なのだろう。
ジョーはゆっくり私に歩み寄り、いつものようにそっと頭を撫でる。涙を拭いて必死に笑顔を作って見上げると、泣いてしまいそうなジョーと視線がぶつかる。
なんでそんな顔をするの?そんな顔をすると、諦めがつかないじゃないの……
「アン……そんなに泣くと、俺も泣きたくなる」
甘く優しい声で告げるジョー。その胸に飛び込めたら、どんなに幸せかと思う。
ジョーはそっと頬に触れ、泣きそうな顔のまま静かに告げる。
「アン、元気で。
俺はアンに会えて、すごく幸せだった」
ジョーのことを忘れようと思っているのに、これでは忘れられないよ。ジョーは罪な男だ、最後の最後まで私にこんな態度を取って。
「ありがとう。私も……」
胸が大きく鳴る。こんなことを言ってしまったら、ジョーを苦しめるだけだと分かっていた。
だけど、最後に言わずにはいられなかった。
「私も、ジョーのことが大好きだったよ」