追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
不意に外が騒がしいことに気付いた。人の叫び声や馬の鳴き声が聞こえる。
咄嗟に窓の外を見た私は青ざめた。
銀色の鎧のポーレット領騎士団は、馬に乗ったまま剣を構えている。その先には、黒色の鎧を着た騎士たちが同じように剣を構えているのだ。しかも、黒色の騎士団は数の上では圧倒的にポーレット領騎士団に優っている。
そのうち、端の方では討ち合いが始まり、ポーレット領の騎士がどんどん倒されていくのだ。
「お兄様!!」
怖くなった私は、お兄様に身を寄せた。震える私を抱き寄せながら、お兄様は腰に差してある剣に手を伸ばす。
「僕たちは、はじめから狙われていたんだ……」
お兄様は今までの能天気な声ではなくて、低くて警戒するような声で告げる。
「オストワル辺境伯領騎士団があまりに強いから近寄れなかっただけで、ずっと待ち伏せされていたのかもしれない」
オストワル辺境伯領騎士団と聞いて、胸がズキっとした。
オストワル辺境伯領を離れた私はジョーに助けを求められないだけではなく……このまま殺されてしまうのかもしれない。
「アン。これも全て僕の責任だ」
嘆くお兄様に、
「そんなことありません!」
私は告げる。
「私はお兄様に会えて、すごくすごく嬉しかったです。
お兄様と幸せに暮らせると思っていました。
でも、やっぱりジョセフ様が好きなのです」
お兄様は、悲しそうに私を見る。私は、ジョーだけではなく、お兄様にもこんな顔をさせて、駄目な女だ。
「私は、オストワル辺境伯領に戻りたい。それでいて、お兄様も幸せに生きていただきたい。
ですから……必ず生きてください!」