追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
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いい香りがする。なんとも食欲をそそる肉の香りだ。
宮殿を追放されてから、肉なんて食べていなかった。それでもタンパク源が必要であるから、コオロギでも食べようかと思っていたところだ。
コオロギ……見た目もおぞましい。肉だ肉だと念じをかけて食べないといけないだろう。
それなのに……肉!?
ぱっと目を開いた。
目の前には、数日間使った小さな焚き火。ぱちぱちと明るい音をたてて燃えている。その脇には、串に刺さった何かの肉が二つ。おまけに串刺しの魚まで。
少なくとも
「コオロギじゃない!」
思わず声を上げた私に、
「コオロギ?」
男性の声が聞き返した。
はっと我に返って見上げると、相変わらず破れた服の男性、そうジョーが立っている。だけどジョーの髪は微かに濡れていて、顔に付いていた泥も綺麗に落ちている。まさしく、今のジョーは水も滴るいい男だ。
その濡れた髪のまま、優しい笑みを浮かべて私を見るものだから、胸がぼっと熱を持つ。こんなにいい男に見られていると思うと、顔だって真っ赤だ。
「な……なんでもない」
かろうじてそう告げた私に、ジョーは心配そうに言う。
「ずっと眠ってるし、心配した」
「それは私の台詞」
ツンとして答えながらも、ふと思った。
私は確かによく眠ったのだろう。今や疲れもすっかり取れ、また活動出来そうだ。だけど、一体どのくらい眠ったのだろう。
「俺は君のおかげで病が治った。
混沌とする意識の中、ずっと君を見ていた」
ジョーはまっすぐな瞳で私を見る。そんなに率直に言われると、くすぐったいような気持ちになる。
「私はただ、薬師として当然のことをしただけです」
そう言いながらも、かぁーっと顔に血が上るのが分かった。