追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる


「ジョー。あれで良かったの?
 ジョーがアンを引き止めるなら、僕も全力で阻止したんだけど」

 セドリックが言いにくそうに俺に告げる。だから俺は答えた。

「アンはせっかく兄に会えたのだ。今まで身内がいなくて寂しい思いをしてきたのだろう。
 だから、アンには幸せになって欲しい」

 俺はこうやって、アンが患者を思うように、アンを一番に考えている。だから俺の思いが砕け散っても、アンが幸せになればいいと思っていた。

「ジョセフ様……お話に割り込んで、失礼だと承知しております」

 セドリックと俺の間には、いつの間にかアンの仕事先の薬師がいるではないか。そして、この女は堂々と俺に物申すのだ。

「アンちゃんは……本当に幸せになれると思いますか?」

 その言葉に、セドリックまで同調する。

「アンは最後にジョーに何て言ったの?」

 最後の言葉は……「ジョーのことが大好きだよ」だった。その言葉を聞いて、胸が悲鳴を上げたのは事実だった。
 アンは俺の知らないうちに、俺のことを好いてくれていたのだ。俺がどれだけ迫ってもアンは飄々とすり抜けていくから、まさか俺のことが好きだとは思わなかった。おまけに、目の前であんなにも泣かれたら困る。
 アンを泣かす奴は許さないと思っていたのに、一番アンを泣かせた奴は俺だろう。

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