追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

「アンは侯爵家の娘だったんでしょ?
 ジョーとの結婚に何ら問題がないじゃん。
 ジョーがアンを引き留めないから、ジョーは一生誤解されたままだよ?」

 セドリックの言葉が胸を抉った。
 俺が……誤解される?アンをこんなにも好きなのに……誤解される?
 それは嫌だ。そして、そのことでまたアンを泣かせるのだろう。

「最近、ジョセフ様は治療院に来られませんでしたよね?
 それでアンちゃんも、ずっと元気がなかったのです」

 薬師がそう言うのも分かる。
 俺は確かに忙しくしていた。あの黒い騎士たちが領地に頻繁に現れるから、防衛に当たっていたのだ。……というのも言い訳で、忙しくしていたらアンのことを忘れられると思っていたからだ。
 アンに会いに行けば、離れられなくなる。俺が潔く身を引くのが最善だと思っていたが、それがアンを苦しめていたなんて。

 アン……会いたい。アンと共にいたい。 
 俺は、アンが大好きだ。


 セドリックを見ると、ニヤニヤ笑いを浮かべながら俺を見ている。セドリックは俺の心が分かっているのだろうか。

「ほら、ジョー。はやく追いかけないと!」

 その言葉を待たなくても、今すぐにでもアンを追いかけたい。そしてぎゅっと抱きしめて、二度と離さないと告げたい。

「ジョーが女性に対してそんな顔をするの、初めて見たよ」

 俺だってそう思う。最近の俺は狂っていた。これは俺の初めての恋であって、理性を吹っ飛ばすほどの大きな恋であった。そして、こんな恋はこれで最後にしたい。

「アンを追いかける」

 俺は馬に飛び乗り、馬を走らせた。馬車はまだそんなにも遠くに行っていないはずだ。今ならすぐにアンを取り戻せる。あとで後悔するくらいなら、行動に移したほうがいい。
 ヘンリー様は俺を憎むかもしれないが……やっぱり譲れないのだ。


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