追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
馬車の扉を開け、お兄様が外へ飛び出す。その瞬間、黒い騎士たちから歓声が上がった。
「ヘンリーがいたぞ!!」
「それならば、やはり妹のアンもいるだろう!」
「兄妹合わせて始末してやる!」
それで分かった。黒い騎士たちは、もちろん私を狙っていたのだが、ヘンリーお兄様も狙っていたということが。そして、私たちは殺されるのだということが。
お兄様はヘタレかと思っていたが、剣の腕はなかなかだった。押されていた赤い騎士団に加勢し、所々で黒い騎士たちが倒れていった。でも、黒い騎士たちのほうが圧倒的多数で、お兄様がやられるのも時間の問題だろう。
こうして皆が必死に戦っているのに、私はただ馬車の陰に隠れているだけだ。
こんな私を見たら、ジョーは幻滅するかな、なんて思った。このまま私だけが生き延びても、ジョーに合わせる顔はない。
そう思った瞬間、私は馬車から身を乗り出していた。そして、大声で叫ぶ。
「私はアン・ポーレットです!
ポーレット領の皆さんを攻撃することは、やめてください!
私なら喜んで命を差し出します!!」
死ぬのは怖い。でも、私一人の命で皆が助かるなら……
「アン!やめろ!!」
お兄様が絶叫する。そしてそのまま、近くの黒い騎士を倒す。
お兄様だってこんなに頑張っているのに……なのに私だけ安全なところにいるなんて……