追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

「皆の者、静粛に」

 黒い騎士団から、野太い声が上がった。それで黒い騎士たちは争いを止め、道を開ける。すると黒い騎士団長だと思われる、馬に乗った立派な黒い鎧を着た騎士が現れた。鎧を着ているとはいえ、その体は鍛え上げられていることがよく分かる。そして、そのよく通る声で私に話しかけるのだ。

「アン・ポーレット。お前は懸命な女性だ。
 お前とヘンリーが首を差し出せば、お前たちの手下の命は救ってやろう」

「いや、お兄様も殺させません!
 ……私は今まで、身寄りのない女でした。私は死ぬことなんて怖くありません!
どうか、私の命で……」

 頭を垂れる。
 死ぬのは怖いが、お兄様を含め、皆を救いたいと思う。皆を救うことが出来たのならば、薬師として幸せな人生だったのだろう。
 死ぬのは怖い。そして心が痛むのは、ジョーやお兄様を知ってしまったから。

「いい度胸だ」

 黒い騎士団長が剣を振り上げ、私は俯いて目を閉じた。

 どうか、お兄様を救ってください。そして、どうか、ジョーやお兄様に幸せが訪れますように……!!


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