追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
だが……
「わぁぁぁぁぁあああ!!」
剣を振り上げたはずの騎士団長が、たいそうみっともない声をあげた。そして、私にはいつまで経っても一撃が降りかかってこない。一体、どうしてしまったのだろう。おずおずと顔を上げた先に……彼がいた。
ジョーは、いつもの黒い隊服を着ていた。そして、馬に乗って剣を振り上げていた。その顔は怒りに満ち、見ている私の背筋がゾクっとするほどだった。
「俺は、オストワル領騎士団長、ジョセフ・グランヴォル。
俺の愛するアンを狙う奴は、許さない」
ジョセフ・グランヴォルの名を聞き、黒い騎士団は一斉に慌てた。そして、口々に情けない悲鳴を上げる。ジョーの存在は、黒い騎士たちにとってこうも脅威だったのだ。
黒い騎士たちは怯えるが、私の胸は高鳴りっ放しだ。ジョーを見て、また涙が溢れた。
「何やってる!かかれ!!」
黒い騎士団長はジョーに剣を向けるが、その剣は塚からぽっきりと折れていた。きっと、先ほどの悲鳴は、ジョーに剣をぶった斬られたからだったのだろう。
「相手がジョセフ騎士団長だとしても、ポーレット兄妹の首を討たないと、我々の命はないぞ!!」
黒い騎士団も命懸けだったのだろう。皆が震えながらもジョーに向かっていった。
そして、大勢の黒い騎士を相手にしても、ジョーは強かった。まるで旋風のように、次々に相手をなぎ飛ばしていく。黒い雲を突き抜ける光のように、ジョーは突き進んだ。
そして、剣で敵をなぎ飛ばしながら、ヘンリーお兄様に向かって何かを投げた。
「ヘンリー様!それを吹いてください!
オストワル領騎士団に、知らせてください!!」
お兄様はそれをしかと掴み、そして見た。ジョーが投げたものは、オストワル辺境伯領騎士団に危険を知らせるためのラッパだったのだ。