追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
彼もお兄様も元気です



 私はひたすらジョーを心配しながら、オストワル辺境伯領へ向かった。乗っていた馬車にジョーを運び込み、必死で止血をした。涙を流し、ごめんねと謝りながら。
 ジョーの顔色はどんどん悪くなり、呼吸も弱くなってくる。やがて、そのわずかな呼吸すら消え、どこに触れても鼓動も感じない。
 私は、こうやって亡くなる騎士を見たことがある。まだ王宮で勤めていたころに、合戦で負傷して運び込まれた騎士たちだった。あの騎士たちを見送ったのも辛かったが、相手がジョーとなると、心に負うダメージは計り知れない。しかも、私のせいでジョーは傷を負ったのだから。

 私が、ポーレット侯爵領に戻るなんて言わなかったら良かったのだろう。ジョーを庇おうと、短剣を投げたのもいけなかったのかもしれない。あれからジョーは、私を抱きしめたまま戦っていた。
 あの時こうすれば良かったという、後悔だけが湧き起こる。だが、過ぎてしまった今、時間を巻き戻すことなんて出来るはずもない。

 私はひたすら自分の服を破って、包帯としてジョーに巻き、止血をする。薬師は神様ではないから、人を死の淵から連れ戻すことは出来ない。それが悔しかった。


 私はふと、馬車の中にある本に目が留まった。本にはこう書いてある。

『緊急時の蘇生法  元王宮薬師長 ガーネット・ポーレット』

 元王宮薬師長 ガーネット・ポーレット?まさか……
 
 思わずその本を手に取ると、青ざめた顔のお兄様が教えてくれた。

「お母様が生前執筆した本だよ。
 でも、それを見ても、ジョセフ様を救えるか分からないけど……」

 そういうお兄様も、かなりのダメージを負っているようだ。体を押さえ、肩で息をしている。お兄様も救わねばならない。でも、今はジョーだ。

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