追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「お兄様。薬を飲んだら、リハビリとして薬草園を散歩なさってください」
私の言葉に、
「えぇー!?」
お兄様はまた音を上げる。
「僕の足、傷付いて動かないんだよぉ」
「いいえ。お兄様の足は負傷していません。
ずっとベッドの上で寝転がっていたから、筋肉が衰えているのでしょう」
そして私は付け加えた。
「もし、本当に歩けないと言うなら……
そうですね、とびきり苦い薬と、神経を繋ぐ痛い鍼治療を受けてもらいましょうか」
その言葉を聞き、お兄様は飛び上がった。そして、転げるようにドタドタと階下に降りていく。
ほら、お兄様、ちゃんと歩けるじゃないの!
「まったく、困る人ですね」
お兄様が消えた階下を見て笑っている私は、不意に
「アン」
ジョーに呼び止められた。
ジョーの声を聞くと、胸がきゅんと甘い音を立てる。薬師モードから、乙女モードへとぱちりと切り替わってしまう。
振り向くと、ベッドに入って上半身を起こしたジョーは、目を細めて嬉しそうに私に手を伸ばしている。そして、私はどきどきしながらも、やはりそれに気付いていないかのように振る舞う。
「ジョーも元気になって良かった」
ぽつりと告げると、
「また、アンに助けられた」
甘くて優しい声で告げられる。そんな甘い声を聞くと、胸がきゅんきゅん言って止まらなくなる。
こんなに必死な胸の内を知られないよう、ジョーから顔を背けて必死に平静を振る舞う。だけど、ジョーは許してくれない。
「アンがいないと、俺は生きられないんだな」
「何言ってるの」
ジョーはいつも、こうやってまっすぐ私に気持ちを伝えてくれる。これが心地よく、嬉しくなっていたのも事実だった。
それに比べ、私はいつもツンツンしてばかり。恥ずかしいが、もう少し素直にならないといけないのだろう。