追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
ジョーの傷口の消毒をして一階に降りると、ソフィアさんが治療院の片付けをしていた。疫病の流行も完全に落ち着き、この街には平穏が訪れている。
ソフィアさんは私に気付き、片付けの手を休めて笑顔で告げた。
「アンちゃんが戻ってきてくれて、嬉しいわ」
「私もです。ありがとうございます!」
私はソフィアさんに迷惑をかけてばかりだ。今回だって、ポーレット領に帰ると言い出したり、お兄様やジョーを二階に泊めたり……こんな私の暴走を、ソフィアさんは受け止めてくれた。こんなに優しい人は、どこを探しても他には見つからないと思う。
「アンちゃんのお母様の本、凄いわね」
目を輝かせるソフィアさんを見て、お母様のことを自慢に思った。
「はい。あの本は母の実験中の記録だったみたいで……書いてあることは、正式には認められていないのですが……」
それでも、お母様はすごい。最年少で王宮薬師長になっただけの腕はあるのだ。そして、私ももっと頑張らねばと励みになった。
今回の一件についても、お母様のおかげでジョーを助けることが出来た。きっと、お母様は天国で喜んでくださっているだろう。
「それにしても、お姫様のキスで目を覚ますなんて、素敵ね」
それを聞いてかあっと血が顔に上る。治療中は必死で、そんな気にもならなかったのも事実だが。
どちらにせよ、ジョーが生きていてくれて、本当に嬉しい。
「私はこのまま、オストワルに残ろうと思います。
これからも、よろしくお願いします」
頭を下げる私を見て、ソフィアさんは嬉しそうに笑ってくれた。
私は、この地でお母様に負けないようなすごい薬師になろうと思う。そして、ジョーとともに幸せになるのだ。