追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
そして次の日、ジョーは言葉通り騎士団に復帰した。命の危機に瀕していたのに、随分と早い復帰だった。
朝、治療院へ行くと、見慣れた隊服姿のジョーが薬草園で水やりをしていた。いつもの幸せな光景だ。
「ジョー、おはよう!そんなに無理しないで!」
私は慌てて止めに入るが、ジョーは水の入ったバケツを下に置き、ばっと私に向かって手を伸ばす。
「おはよう、アン」
その笑顔すら眩しく、恥ずかしい私は伸ばされた腕の中に飛び込めるはずもないのに。なのにジョーはいつも、こうやって私を抱きしめようとする。
「ジョー。そこに私が飛び込むと、傷に当たって痛むよ?」
敢えてそう言うが、
「アンがいたら、痛むはずがない」
わけの分からない理屈を吐かれる。
「おいで、アン」
その甘い声に釣られて、ふらふらっとジョーに近寄ってしまう。必死で抵抗しようとするのに、ジョーが愛しすぎて、見えない糸に引っ張られるように胸に飛び込んでしまったのだ。
そして、ジョーはそっと優しく、だけど力を込めて私を抱きしめてくれた。
「アンがいることが、こんなに幸せなんてな」
甘いその言葉に、また胸のドキドキが止まらなくなる。私だってそう思う。魚に水が必要であるように、私にはジョーが必要だ。
ジョーは私を抱きしめたまま、優しく告げる。
「このあと俺は勤務に戻るが、その前にセドリックに呼ばれている。黒い騎士たちについての話のようだ。
アンにも知る権利があるから、俺と一緒に来て欲しい」
「うん……」
黒い騎士の話を聞くのは怖いが、しっかりと知っておかなければならないと思う。私はどうして見ず知らずの騎士から狙われていたのか。そして、その問題は解決したのかどうか。もしまだ狙われているようであれば、今まで以上に用心しないといけないだろう。これ以上、ジョーを命の危険に晒したくないのだ。