追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
その後、私たちはオストワル辺境伯邸で、オストワル辺境伯とセドリック様から話を聞いた。
厳しい顔のオストワル辺境伯と、その隣には相変わらずヘラヘラしたセドリック様が座っている。その前に、ジョーと私、そしてヘンリーお兄様が立っていた。
オストワル辺境伯は、いつものように眉間に皺を寄せたまま私たちに告げる。
「騎士団の手を借りて、黒い騎士たちの尋問が昨日終わった。その結果を、君たちに伝える」
オストワル辺境伯領騎士団の尋問だなんて、きっとかなりキツいものだったに違いない。どんな尋問をするのかジョーに聞いても、きっとはぐらかされるだけだろうが。
「あの黒い騎士たちは、君たちの父親の弟……つまり、ヘンリー様が敵討ちをした元ポーレット侯爵の側近が率いていた。
名をサイロン卿といい、現在は王宮で大臣として王政に関わっている」
サイロン卿……王宮を追放されたあの日、私を敵意に満ちた目で見下ろした大臣も、そんな名前だったような気がする。私は恨みを買った覚えはなかったが、サイロン卿はヘンリーお兄様に対して恨みを持っていたのだ。自分が仕える主を殺されたという恨みを。
「サイロン卿はヘンリー様を恨んでいた。恨みを晴らすために大臣まで登り詰め、まずはヘンリー様の妹であるアンを殺そうとした。
だが、アンの暗殺は、師匠によって阻止された」
「それで、追放されたアンを狙って殺そうとしていたけど、アンはなかなか見つからなかったわけ。
サイロン卿はアンが王宮から遠くへ行かないと思っていたけど、アンはどんどん離れていって、ジョーと行動するようになっちゃったしねー」
オストワル辺境伯の話の続きを、セドリック様が軽い調子で話す。だけどその話の内容は、決して軽いものではなかった。
私が荷馬車に潜り込んで遠くまで行かなかったら……あの森でジョーに会わなかったら……生きていられなかったのかもしれない。
人生って不思議だ。何気ないその行いが、ここまで運命を変えてしまうだなんて。