追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「私は侯爵家生まれだったみたいだけど、ずっと平民として暮らしてきたの。
だから、こんなに豪華な生活、戸惑ってしまって……」
「そうか……」
そう言ってジョーは、ナイフとフォークで綺麗に牛肉を切って食べる。つられて私もそれを口に入れたが、頬が落ちるほど美味しい。平民では食べられない肉質だ。
思わぬ美味しさににやけてしまった私を、ジョーは嬉しそうに見る。
「本来ならば、グランヴォル家よりもポーレット家のほうが爵位が高く、豪華な暮らしをしているはずだ。だから、この家での生活なんてたいしたものではないだろうが……」
ジョーはまた、甘い瞳で私を見る。
「俺は、アンと二人で旅していた時が一番楽しかった。だから、最低限の威厳は保ちつつ、飾らない暮らしをしよう」
ジョーは魔法でも使えるのだろうか。私が何を考えていたのか、感じ取ってしまったのだろうか。ジョーの言葉を聞いてホッとしてしまう自分がいた。
そして、こうやって迷惑ばかりかける私を大切にしてくれて、すごく嬉しい。私だってジョーに出来ることはないだろうか、なんて考えてしまった。
「俺はアンと触れ合いたいから、召使いがたくさんいても困る」
「そ、そこ!?」
ジョーの言葉に赤面しつつも、余計なことを言わなかったほうが良かったかもしれないと後悔した。人の目があるからこそジョーもぐいぐい迫ってこないが、二人きりになってしまうと、まずいかもしれない。
ジョーは熱っぽい瞳で私を見る。そんな目で見られると、ドキドキして食事すら喉を通らない。
同居生活は始まったばかりだというのに、前途多難だ。