追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる




 広い薬草園で、私はジョーに護身術を教えてもらう。最近は、これが日課になっていた。ソフィアさんは護身術なんてと笑うが、私は至って本気だ。私が事件に巻き込まれた時、少しでもジョーの負担を軽くしたいと思ってしまうから。

 ジョーに言われた通りに棒を振るうと、ジョーはわざと棒に当たってやられたふりをする。厳しい騎士団長のはずなのに、私には甘々だ。
 そして、毎度のことながら、騎士団の仕事を放り出して私と遊んでいていいのかと思う。

 わざとらしく倒れたジョーを見て、

「もう!真面目にやってよ!」

なんて笑ってしまう。少なくとも、私はジョーの足下にも及ばないことは分かっているのだが。

 ジョーもおかしそうに笑いながら、

「俺は真面目にやっている。アンに見惚れて何も出来なくなってしまうんだ」

なんて、これまた甘い言葉を吐く。最強の騎士団長を狂わせる私が、ある意味最強なのかもしれない。

 だが、このジョーの訓練のため意外にも私が戦えるようになっていたことが、後々分かるのだった。

「明日は王都に向けて出発だ。
 国王に、どうやって謝らせてやろうか」

 ジョーはそんな不吉なことを言うものだから、

「陛下は何も悪くないんだよ!」

 慌てて否定する。それでも、私が育った王都にジョーと行けるなんて、不思議な気分だった。
 師匠も元気にされているかな。ジョーのことも報告しなきゃ。王都なんて二度と行くつもりもなかったが、意外にも王都行きに胸を膨らませる私がいた。
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