追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
山賊たちが去っても、しばらく恐怖で体ががくがく震えた。そんな私の両手をそっと握り、
「大丈夫だ」
ジョーは静かに告げる。
ジョーの握る手が熱く、火傷してしまいそう。手だけではない、頬や体だって火照っている。私はきっと、すっごくへたれて泣きそうで、それでいて真っ赤な顔でジョーを見ているのだろう。
だが、ジョーが手を握ってくれるから、恐怖も和らいできた。ジョーが隣にいてくれれば、どんなピンチも乗り越えられれ気がした。
不意に近くで、ヒヒーンと馬の鳴き声がした。ジョーに続いて森の中を少し進むと、なんと茶色の馬が一頭見えた。馬には鞍が付けてあり、縄で木に縛りつけてある。きっと、山賊の忘れ物だろう。
「馬があったら早いな」
ジョーはそう言い、慣れた手つきで手綱をほどく。
「よし、辺境伯領まであと少しだ。馬で進もう」
「う、馬で進むって言われても……私、乗り方分からないし……」
慌てる私の手を再び握るジョー。それでまた、ぼっと顔に火が灯り、熱を持つ。
「大丈夫。俺が乗れるから」
ほら、また大丈夫って言われた。ジョーが言う大丈夫は、本当に大丈夫なのだから。
ジョーは手取り足取り教えてくれて、なんとか必死に馬によじ登った。それでも、ジョーが触れるたび体が熱い。そして、ジョーは慣れた様子で私の後ろに飛び乗った。
「もうすぐだ、アン」
甘い優しい吐息が耳にかかる。それだけではなく、その力強い体は私を抱きかかえるようにして馬の手綱を握る。ジョーが手綱を引くと、馬はゆっくりと駆け出した。
ジョーはすごい。強いだけでなく、馬の扱いにも長けているなんて。きっと、私はジョーのお荷物扱いなのだろうが……こうやってぎゅっとされて、手や頬が触れるたび、胸の調子がおかしくなる。甘くて苦しい悲鳴を上げる……
「わあ、すごい!速いんだね、馬って!」
必死に平静を装うが、胸が甘くドキドキ言って止まない。宮殿で薬師をしていた私は、きっと男慣れしていないからだろう。