追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
陛下の謁見を終えると、小さな部屋に通される。その部屋には私に剣を向け追放した騎士団長とその部隊がいて、胸がずきんとした。それとともに、あの時の恐怖が押し寄せてくる。
私は騎士たちに近付かないようにジョーの陰に隠れたが……
「アン様」
騎士団長が私の前に歩み寄り、跪いた。あの時は薬師アンと呼び捨てにされたのに、今はアン様となっている。その待遇の変化に戸惑うばかりだ。
「以前、私たちが貴女に剣を向けたこと、お許しください」
そんな騎士団長に、
「と、とんでもございません!
それがお仕事なのですから、当然のことです!」
なんて言い、さらにジョーの陰に隠れた。
もう、そのことは無かったことにして欲しいくらいだ。思い出すだけで怖くなるし、あの時は本当に辛かったのだから。
だが……その言葉にイラついたのは、私ではなくジョーだったのだ。
私の前に庇うように立ちはだかり、
「……剣を向けた?」
低い声で騎士団長に聞く。その声には凄みがあり、聞いただけで逃げ出したくなる人だっているだろう。
「貴様は、俺の婚約者を殺そうとしたのか」
ジョーは自らの腰に差した剣に、すでに手をかけている。ジョーの気持ちは嬉しいが、こんなところでトラブルを起こされたら厄介だ。そして、ジョーはさらに荒くれ者になってしまうだろう。
実際、この騎士団長だって、怒りで爆発しそうなジョーを前に怯えた顔をしているのだ。
「ジョー!大丈夫だから!私、元気だから!!」
必死にジョーを宥めるが、ジョーの怒りは治まらないらしい。
「俺は貴様ら全員を殺す腕も持っているし、アンのためになら命だって賭けられる。
だが、アンが必死で止めるのだ。アンに免じて殺すのは止めてやろう」
騎士団長は、ジョーを前に青ざめていた。そして申し訳ありませんと何度も頭を下げる。
私の想像以上に、ジョーは恐ろしいと噂されているようだ。だが、本当のジョーは騎士団の部下にも優しく慕われている。そして、こんなジョーが好きだし、ジョーに甘やかされてとても幸せだ。