追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる



 この凍りつく空気の中、私は不意に廊下から部屋の中を見ている人たちに気付いた。先頭にいる彼を見て、私は思わず駆け出していた。

「師匠!!」

 師匠はジョーと騎士たちのやり取りに怯えながらも、私を見ると嬉しそうに顔を輝かせる。こんな師匠を見ると、涙さえ出てきそうになった。

「師匠!」

 師匠の前に辿り着き、私は涙を我慢して必死に告げる。

「色々、お世話になりました。
 疑いをかけられた時も、私を守ってくださってありがとうございました!」

 師匠のおかげで、私は殺されずに済んだ。

「師匠が私に色々教えてくださったので、私はジョセフ様やオストワルの人々を救うことが出来ました!」

 私の知識は紛れもなく師匠から受け継がれてきたものだ。師匠のおかげで今の私がいると言っても過言ではない。
 私は師匠にこんなにも助けられたのに、師匠に何一つ恩返しが出来ていない。

 師匠はその年老いた顔をくしゃくしゃにして、私に告げた。

「わしこそ、アンを守ってやれなかった。わしら全員からお詫び申し上げたい」

 師匠の後ろには、現在の薬師長をはじめとする薬師たちがずらっと並んでいる。みんな心配そうで、それでいて嬉しそうな顔をしている。

「ようやくガーネットの話も出来るのじゃ。
 わしらは、ガーネットの娘であるアンが、幸せになってくれてすごく嬉しい」

「お母様は、皆さんにとても慕われていたのですね」

 お母様の話を聞くたびに嬉しくなる。私も、そんなお母様みたいな大人になりたいと心から思う。
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