追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
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馬車が停まって扉が開かれると、まずジョーが馬車から降りた。そして、私の手を引いて降ろしてくれる。ジョーの行いはいつも紳士で、胸がきゅんと甘くなる。
馬車から降りた私は、ぐるっと故郷を見回した。
済んだ空には海鳥が飛び交い、潮の香りがする。
目の前には大きな運河が広がり、運河には大小様々な舟が行き交っていた。
ある船頭は陽気に歌い、またある舟はフルーツをたくさん積んでいる。
そして、運河の向こうには、大きな屋敷が建っているのが見えた。きっと、あそこがポーレット邸だ。
「ジョセフ様、アン様。ご用件は、ヘンリー様から伺っております」
馬車の前の船着き場に立つスーツの男性が、帽子を取って挨拶した。
「ご結婚、おめでとうございます」
私たちは行く先行く先で、こうやって祝福される。もちろんまだ結婚もしていないし、結婚するという実感も湧かない。だが、ジョーとの距離が近付いているのは確かだった。
「ヘンリー様が、領主館でお二人をお待ちです。
どうぞ、舟へ乗られてください」
こうやって、私は勧められるままに舟に乗り、目の前に建つ領主館へ向かったのだ。
その舟旅の道中、やはり周りの人はじろじろを私たちを見る。もちろんヘンリーお兄様の妹である私も見られているのだが、ジョーを見る目は恐怖にも近い。
ジョーは気にしないようにしているのだが、ずっとこの恐怖の視線と戦ってきたのだろう。だから私に、オストワル辺境伯騎士団に所属していると引くか?なんて聞いたのだろうし、ジョーの本名も知って欲しくなさそうだった。
ジョーが強いのは事実だが、暴君とは程遠い。私はこのままずっとジョーに寄り添って、一番の味方になろうと誓った。