追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
物思いに耽っている私は、急に冷たく濡れた手で口を塞がれた。驚きと恐怖心が共に襲ってくるが、濡れた体でドレスごと拘束され、身動きが取れない。
そして、髪からぽたぽた水を垂らしながら、私を捕らえた男は耳元で囁いた。
「お前がポーレット侯爵の妹か。なかなかいい女だな」
背筋がゾクっとする。その間にも、私のドレスはこの男によってどんどん濡れていった。
「俺はお前を捕らえるため、運河を泳いで渡ってきたのだ。
お前を人質にして、ポーレット侯爵から身代金を取ってやる」
この男が濡れているのは、なんと運河を泳いできたからなのだ。哀れで馬鹿な男だ。そして、もちろん怖くて怖くて仕方がないのだが……こんな時、ジョーならどうするだろうと思った。
せっかくジョーから護身術を学んだのだ。この男は刃物も持っていないみたいだし、何とかなるかもしれない!
私は勇気があるタイプではなかった。
だが、ジョーとの旅や黒い騎士の件で、少しずつ心が強くなっていたようだ。
オオカミの群れを追い払ったこと、ジョーの背後に迫る黒い騎士にナイフを命中させたこと、どれもジョーの手柄に比べたら言うのも恥ずかしいことだが、それが少しずつ自信になっていた。
昔の私なら、こんなふうに捕らえられたら怖くてぼろぼろ泣いていただろうに。