追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
男は私が怖がっていると思って油断していた。怖がっているのは事実だが……その油断の隙を、私は見逃さなかった。
素早く手を振りほどき、その腕を抱えて男性を投げ飛ばす。
もちろん男を投げ飛ばすなんてただの薬師には不可能だが、私はジョーに力の入れ方とか、人の押さえつけ方なんかを習っていたのだ。
男は宙を飛び、どさっと私の前に崩れ落ちた。そして自由になった私は、大声でジョーの名を呼んでいた。
投げ飛ばされた男は、侯爵の妹にやられたことに腹を立てているらしい。腰を押さえて立ち上がり、ようやく腰に差してある短剣を抜いた。
私はもちろん武器なんて持っていないし、何よりドレスを着ていて動きにくい。もしかして、ここまでなのだろうか……
「貴様……女のくせに……」
男は怒りで震えている。
「気が変わった。殺してやる!!」
だけど……不意に背後に回ったジョーに、まるで子供でも相手にするように簡単に捕らえられてしまった。もちろん手に持った短剣は、一瞬で地面に落ちていた。
「俺の婚約者に、手を触れるな」
ジョーは怒りで満ち溢れている。その怒りのオーラだけで、この男を殺してしまいそうだ。
さらにジョーは付け加えた。
「俺の名は、ジョセフ・グランヴォル」
その瞬間、男は震え上がり断末魔の悲鳴を上げる。ジョーはその名が恐れられていることを知り、わざとやっているのだろう。そして、最強の騎士に捕らえられたこの男も、また哀れだった。
「どうか命だけはお助けを」
泣きながら命乞いする男を、ジョーは護衛の騎士に引き渡した。
「牢屋にぶち込んでおけ」
なんて言いながら。