追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
だけど師匠は譲らなかった。手を広げ、大臣たちを先に行かさないとでも言うように、彼らを睨む。
「お待ちください。陛下はもう、元気にされています。
そもそも、あんな少量の毒ごときで死ぬことなんてありますまい。アンはその辺も心得ておる。
もし本当にアンがしたというのならば、もっと強い毒をもっと大量に盛るだろう」
大臣はぐうと息を呑んで引き下がった。そして、渋々告げる。
「疑わしきは罰せずか。
……仕方ない、処刑は中止しよう。だが……」
そのまま、彼はぎろりと私を睨んだ。まるで蛇に睨まれたカエルのように、身動き取れない私に、大臣は告げた。
「アン。お前の行いは誤解されても仕方がない。事実、王宮内には犯人はアンだという噂で満ち溢れている。
これ以上お前をこの地に置いておくわけにはならない。追放だ。」
こうして私は陛下に毒を盛ったという身に覚えのない濡れ衣を着せられて、宮殿から追放されたのだ。
最後に見えたのは、師匠の悲しそうな顔と、大臣の意地悪く歪んだ顔だった。
大臣の顔を見て、一体誰に嵌められたのだろうと考えた。
王宮薬師として勤める私は、特に敵も作らず業務に追われる日々を過ごしていた。だけど、私の知らないところで私を憎んでいた人がいたのかもしれない。あの大臣はいかにも悪そうな顔をしていたが、あまり話したこともない。そのため、恨みを買うなんてことも考えにくい。
だけど……都を追放された私は、もうここに戻ってくることもないだろう。あの大臣含め人間関係を精算したと思うと、なんだか胸がすっきりするのだった。ただ、師匠に大迷惑をかけたことだけは心残りだが。
さて、これからどこに行くべきだろう。
私の父母はもう死んでしまったし、小さい頃から王宮で薬師として育てられた私は、親戚も兄弟も分からない。おまけに、宮殿外で生きていく術も知らない。このまま彷徨って死んでしまうのだろうか。