追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる


 オストワル辺境伯邸を出ると、辺りはすでに暗くなり始めていた。セドリック様が家を貸してくれたから、今日はようやく温かいベッドでゆっくり眠れそうだ。はじめは野営だなんて意気込んでいたが、正直旅はもう懲り懲りだ。

 ジョーに連れられて、セドリック様から借りた家に向かう。こんな時も私の背中に手を添え、エスコートしてくれるジョーにときめいてしまう。惚れ薬……さすがにそのレシピは知らないが、ジョーに与えてみたい衝動に駆られた。


 闇に包まれる街からは人々が消え、家からは灯りが漏れ出ている。そして、黒い服を着た見張りの騎士が所々に立っていた。

「オストワル辺境伯領騎士は、すごく強いんだよね」

 思わずジョーに聞くと、ジョーは目を細めて私を見た。

「強い?……知らないな」

 そして、私の頬をそっと撫でながら、甘い声で告げた。

「でも俺は、これからもアンを守るから。
 アンがこの地で幸せに暮らして欲しい」

「私も、ジョーが幸せでいてくれたらって、心から思うよ」

 ジョーはそのまま私のおでこに唇を寄せる。ピリッと甘い電流が流れた。そしてそこから、身体中へ熱が伝わる。思わず身を捩ってしまった。
 そのまま、ジョーは甘い声で聞いた。

「俺がオストワル辺境伯領の騎士だったら……引くか?」

「……え?」

 私は、まじまじとジョーを見た。ジョーは少し不安げに私を見ている。
 ジョーは、凡人からは考えられないほど強かった。オオカミの群れも、山賊だって足下に及ばなかった。あの並外れた強さだから、国の中でも最強の部類に入る騎士団にいてもおかしくない。

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