追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
嫌われ者から人気者に、格上げされました
 ソフィアさんが治療院の鍵を開けた瞬間、患者が院内になだれ込んできた。午前の部の診療開始だ。
 私は院内の設備もよく分からないのに、ソフィアさんの前には大勢の人だかりが出来ている。私が言った感染対策なんて無視だ。そしてソフィアさんが、一人一人に薬湯を配っていた。

 それを横目に、私はまず部屋に消毒薬を振りかける。そして、消毒効果を持つ香を焚いた。ソフィアさんは私の様子をぽかーんと見るが、何も言わない。私を信じてくれているのだろう。

 ようやく消毒が終わって人を迎えようとするが……

「誰がお前になんて看てもらうか!」

 人々は口々に私を拒否した。

「お前は新入りの薬師だろ?
 お前の腕なんて分からないのに、偉そうにしやがって!!」

「胡散臭いニセ薬師め!」

 その言葉にズキンときた。
 王宮では、治療に当たっては薬師の指示が絶対だった。それゆえ、私たちはミスを犯さないように細心の注意を払っていたのも事実だが。
 だが、ここではそれが普通でないことに気付く。さらに言うなら、ソフィアさんみたいな患者に寄り添う姿勢が評価されるのだ。

 私は、薬師として一番大切なものを失っていたのかもしれない。私の言いなりではなくて、患者の満足する治療をすることを。患者がこの薬師に頼って良かったと、心から思える治療をすることを。

 呆然とする私の近くで、ソフィアさんは女神のように微笑んで、人々に薬を分け与えている。ソフィアさんから薬をもらう人々は、まるで助かったようなホッとした表情をしている。
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