追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

 そんななか、

「アン!」

ずっと待っていたその声が聞こえた。思わず治療の手を止めて振り返った私は……紅潮していた。

 私の記憶の中の彼は、薄汚れたシャツを着ていた。髪もボサボサに逆立っていて……
 だが、目の前にいる彼は、記憶の中の彼とは全然違っていた。黒い騎士団の服に身を包み、腰には煌めく剣を携える。金色の髪はきちんと整えられ、その整った顔を一段と際立たせている。天下のイケメン、キタ!!!

 あまりのかっこよさにくらくらする私だが、

「アン、頑張ってるんだな」

彼はいつものように私に歩み寄り、頬を緩めて頭を撫でる。
 や、やばい。騎士団の彼は一段とかっこよく、顔が真っ赤になってしまう。胸のドキドキが止まらない。彼の甘い視線に耐えられず、思わず目を逸らしてしまう。

 こんな私たちを見て、

「きゃ、きゃあーーーっ!!
 ジョセフ様が女性に笑いかけてる!!」

「し、信じられないーッ!!」

 悲鳴を上げる人々。鼻血を出して倒れてしまう人までいた。

「し、止血しないと!」

 私は彼を振り払い、慌てて倒れた人に駆け寄った。そして、鼻にタオルを当てて止血する。
 止血しながらも、まだドキドキは止まらなかった。タオルを持つ手が震えていた。
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