追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「アン、手を煩わせて悪い。君の様子が心配で、見に来たんだが……」
その言葉は嬉しいが、人々の注目を集めるからやめて欲しい。それに……
「ジョセフ様」
軽々しく彼を呼んではいけないと思いそう呼ぶが、彼はぎょっとした顔をする。なんでそんなに拒否反応を示すのだろうか。
「ジョーでいい。今まで通りでいい。
……今まで通りにしてくれ」
甘く切ない声でそんなこと、言わないで。現実を知りながら、ますます離れられなくなってしまうから。そして、ジョーがそんなに甘いから、今まで通りでいいやなんて思ってしまうから。
ジョーはいつものように、笑顔で頭をそっと撫でてくれる。その大きい手に撫でられながら、私の体は熱くなる。そのまま、頬にもそっと触れる。ぞぞーっと体を甘い戦慄が駆け抜けた。
「また来るから」
しまいには、頬にチュッと口付けをして去っていった。私は腫れてしまいそうに熱い頬を押さえながら、ジョーが出て行った扉を見ていた。いけない、いけないと思いながら。
ジョーはこの街の勇者、ジョセフ騎士団長だった。私に、彼の相手が努まるわけがない。
ぼっと火照る頬を押さえ、私はただ茫然と立ち尽くしていた。