追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
「またまたぁ。アン様、顔が真っ赤ですよ」
患者に言われてようやく、酷くデレた顔をしていることに気付いた。ジョーのことは、期待しないと言い聞かせているはずなのに。
「私、この近くでケーキ屋をしているんです。手も動くようになったから、またケーキが焼けます。
ジョセフ様とアン様のご結婚を祝って、紅白ケーキでも作りましょう!」
「ちょ、ちょっと待ってください!
け、結婚だなんて!!」
私は大層取り乱して、この患者の前で大慌てをしている。慌て過ぎて、手に持っていた薬草を床全面にばら撒いていた。こんな私を見て、おもしろそうに笑う彼女。私はきっと、この女性に遊ばれているのだろう。
「アン様、今日はありがとうございました。紅白ケーキ、買いにきてくださいね!」
そう言い残して、最後の患者であるこの女性は治療院から出て行った。そんな女性を見送りながら、散らばった薬草をかき集める私。必死でジョーのことを考えないようにしていたのに、いつでもどこでもジョーの話題だ。私の頭の中は、こうしてジョーで埋め尽くされていくのだった。
ジョーのことで取り乱しすぎの私に、さらに追い打ちをかける人物がいた。
「アンちゃん」
ソフィアさんはにこにこと笑いながら、私の散らかした薬草を拾うのを手伝ってくれる。真っ赤な顔の私は、ソフィアさんと目を合わさないように下を向くが……
「診療も終わったし、ゆっくり話しましょう」
ソフィアさんは満面の笑みで告げる。そう、もちろんジョーの話を聞きたいのだろう。